「失敗を失敗と認められるチーム」は強い。CTO経験者3名は組織とキャリアについてどう考える?【後編】

「立場が人を育てる」という言葉があります。責任のある役割に就くことで、その立場にふさわしいスキルや知識、人間性が身に付くという意味です。人は重要な役割を任されると、事業やプロジェクトを成功させるために思考・行動し、問題解決能力やリーダーシップが養われます。チャレンジングな環境に身を置くことでひたむきに努力し、成長するのです。

さまざまな役割があるなかでも、開発組織をけん引するCTOのポジションは、業務の難易度の高さや責任の重さなどから、その成長の度合いも著しいものがあります。前編・後編の2回に分けてCTO経験者である株式会社LayerXの新多真琴さんと篠塚史弥さん、星北斗さんにインタビューする企画の後編では、組織作りへの思いや今後の目標などを聞きました。

組織のみんなに、いかにしてミッション・ビジョンを伝えるか

――組織作りもCTOの重要な役割ですが、それに関連した学びはありますか?

新多:ビジョンを打ち出すことの重要性ですね。どのような会社・組織にしたいのかをきちんと言語化して、その思いが隅々まで行きわたるようにすること。企業に所属する全員が納得感を持って「自分たちはこういう状態を目指している」と自分の言葉で語れるような組織にしていく必要があります。そのために、組織の方針策定やメンバーへの伝え方など、あらゆる工夫を実践していました。

:確かに、経営陣が見据えている未来をどうやって伝えるかは大事ですね。前職はミッションドリブンな会社だったので、なおさら「ミッションに向かううえでエンジニアリングはどのように作用していくべきか」を伝えることの重要性が高かったです。「みんなに伝えて同じ方向を向いてもらう」というのが、一番労力がかかりますし大変な部分です。

篠塚:2人の言っていることに同感ですね。一方で、理想を掲げたとしても組織のすべてがうまくいくわけではないですし、何の課題もない組織はそもそも存在しないので、「完璧な状態の組織はありえない」という気持ちを同時に持っておくことも必要です。

そのうえで、日々の業務のなかでミッション・ビジョンを実現するために、自分たちの組織には何が足りていなくて、どうすれば理想の状態に近づけられるのかを考えていくこと。少しずつでもいいので改善を続けていくことが、組織作りなのだと思っています。

篠塚史弥さん

失敗を失敗と認められるチームであれ

新多:組織のオブザーバビリティ(可観測性)を高めるということですね。

篠塚:オブザーバビリティは大事ですね。会社の経営を続けていると、うまくいくことばかりではないですから。期待したのとは違う残念な結果が出てしまうことも多々あります。そんなときに「私たちはこういう部分が悪くて失敗しました」と明確にして、自分たちの過ちをきちんと認められる組織にしなければならないです。

失敗を素直に受け止めるのは難しいですし、それを直していくのはもっと難しいですけれど、同時に組織をより良い状態に持っていくには大事なプロセスです。

新多:失敗というのは、失敗したと認めなければ失敗にならないんですよね。そして、失敗を失敗として受け止められない組織は、改善しなくなるのでいつか衰退してしまいます。PDCAが回らないので「Do→Do→Do→Do!」という感じになってしまうというか。

「こうなると思ってやってみたけれど、想定以上に効果が出ませんでした」とか「これはこういうところに理由があります」と、負け戦についてきちんと説明すること。ごめんなさいを言える組織は強いなと思うんですよね。それこそが組織の心理的安全性ですし、その健全性を保つことは組織をマネジメントする人たちの重要な役割です。

篠塚:LayerXは組織の透明性をすごく大事にしている会社ですし、経営陣が「決して失敗を隠さない」という意思と覚悟を持って事業を推進してくれています。だからこそ心理的安全性が生まれるし、みんなが自己開示できるような環境が整っていますね。

:こういった、会社全体の風土を作る動きというのは、ボトムアップだとなかなか浸透していかないんですよ。だからこそ、会社のトップがそういう姿勢を明確に示すのは大事なことだと思うんです。一般論として、会社のなかでの責任が重くなっていくにつれて、失敗をオープンにするのは難しくなります。LayerXでは経営層がそれを実践しているのが、すごいことだなと思いますね。もちろん、その裏側にはいろいろな葛藤があるはずですけれど。

星北斗さん

新多:LayerXが事業をピボットしたのも、失敗を素直に認める文化の表れだと思うんです。もともとLayerXはブロックチェーン技術を専門とする会社として立ち上がりましたが、今では全く違う業種に転換をしています。それはつまり、事業戦略が誤っていた場合に経営陣がきちんと失敗を認めることができて、そんなときにみんなも一緒に覚悟を決めて方針転換できる体制だということなんですよね。

大切なのは「どんなポジションで働くか」よりも「自分がワクワクして価値を発揮できること」

――「特定企業でCTOを担った人が、その経験を活かして他のポジションで活躍する」とか「マネージャーを務めていた人がテックリードに転身する」といったように、エンジニアが多様性のあるキャリアを築くことについての、みなさんの考えをお聞かせください。

篠塚:エンジニアが多様性のある経験を積むことで、それが巡り巡ってその人の成長を促し、どのような場所でも活躍できるようなスキルやマインドを習得できると思います。役割を限定せずに、今の自分が最もモチベーション高く取り組めるところ、活躍しやすいところに関わっていくことで、本人のキャリアもより良くなるでしょうし、純粋に働いていて楽しくなるはずです。

:人生にはいろいろなことがありますし、この先自分がどうなっていくかなんて全くわからないじゃないですか。だからこそ、「自分はこの領域だけやっていればいい」と凝り固まらずに、いろいろなことを、いろいろな立場でやったほうが面白いと思うんですよね。その経験を通じて、自分の新しい可能性が見つかることもあるはずです。

自分の場合、コンピューターが好きで、課題を解決するのが好きだから長年エンジニアの仕事をしています。でも、同じ仕事ばかり同じ視点でやり続けていると、飽きてしまうんです。だからこそ前職でも現職でも、注力するテーマは一定のスパンで変えてきました。自分がワクワクできる状態を保ち続けることが、楽しく前向きに生きていくために大事なことなんじゃないかなと思っていて、私はそれを実践しています。

余談ですが、去年から趣味でテニスを始めたんですよ。自分が何もできないなかでインストラクターに教えてもらったり、ひたすら無我夢中に練習し続けるのって、すごく新鮮で楽しいんですよね。前職ではマネージャーやCTOなどを担っており、誰かに何かを伝えたりみんなをリードしたりといったことが多かったですが、テニスを通じて「人から何かを教わるのはこんなに楽しいんだ」と改めて知ることができました。

これはテニスの例ですが、もちろん仕事においてもそうだと思います。今の自分が経営やマネジメントの仕事をしているからといって、ずっとその立場でいる必要はない。違った立場で違った経験をしてみることも、キャリアにとってプラスになるはずです。

新多:私の場合、キャリアにおいて達成したい何かがあってCTOになったかというと、そういうわけではありませんでした。そのタイミングで自分が面白いと思えて、かつ他の人たちにとっても嬉しい選択肢を選び続けてきたという感じです。「何のポジションで働くか」はどうでもよくて、その仕事を自分がやっていて楽しいか、そして一緒に働くみんなや社会に対して価値を生み出せているかのほうが、よほど重要だと思います。

とはいえ、一通りいろいろなことを経験してきたので「これは今の自分なら解ける課題だけれど、もうやらなくていいかな」とか「この課題はもっとうまく解ける人が他にいるな」というものもたくさんあります。何に取り組むと自分の価値を一番発揮できるのかについては、これからも模索していきたいです。

新多真琴さん

自分は何をしているときに心が踊るのか?

――今後、LayerXで何を実現していきたいですか?

篠塚:私はLayerXで新規事業に関わっていて、まだまだ組織は小さくてプロダクトも生まれたてです。数値のうえでも質のうえでも、世の中になくてはならないくらいの影響度がある事業に育てていきたいです。

:10年後とか20年後の未来に「LayerXがこういうことをしたから社会がこう変わったよね」と言えるような仕事ができたらと思っています。私たちが成し遂げたことが、社会や歴史のなかに残っていたら、すごく嬉しいですね。

新多:私は会社というものを「1人の人間ではできないことを、みんなが集まることで実現し、より大きな価値を世の中に生み出していくための仕組み」だと考えています。この会社という構造のなかで、最もレバレッジが効くポイントであり、そしてまた最も活動の妨げにもなるのが人と人の関係性です。だからこそ、私は組織作りにすごく興味があります。もちろんエンジニアリングも大好きなんですけれど、技術と組織の両軸を大切に、LayerXでは今後もやっていきたいです。

私たちは半年にひとつ新しいプロダクトを作って、それをPMFさせていくという難易度の高い挑戦をしています。変化の激しい社会に対して、自分たちの事業や組織を通じてさらに大きな荒波を起こそうとしている企業です。どんな波にも適応できるようなしなやかな組織を作れたら最高ですし、その組織作りのノウハウを世の中にも還元していきたいですね。

――LayerXの成長の著しさがよく伝わりますし、今後が楽しみですね。最後に、Findy Engineer Labの読者に向けて「エンジニアがより良いキャリアを実現するうえで大切なこと」というテーマで、メッセージをお願いします。

新多:自分は何をしているときが楽しいのか、何に対して心が動くのかを把握してほしいです。自分のことは自分が一番わかっていないので、自分を理解するというのは大変なんですよ。そのうえで、自分の目指したい方向と会社の方向性との折り合いを考えていくと、納得できるキャリアが見えてくるはずです。そんな話を過去にFindy Engineer Labに寄稿したので、詳しくはぜひその記事を読んでみてください。

findy-code.io

篠塚:「どんなポジションになりたいか」でキャリアを選択するのではなく、自分の心が動くポイントを見つけるのが大切です。そうは言っても、会社のなかで「自分はこれをやりたい」というワガママを言っているだけでは絶対に通らないので、自分の気持ちを大事にしつつも、与えられた環境で役割を果たしていくこと。周囲からの期待値を超え続けていくうちに、だんだんと重要な仕事を任されるようになり、自然とキャリアは拓かれていくものだと思います。

:食わず嫌いしないことが一番大事です。「自分はこれしかやらない」と思い込んでしまうと、その枠組みに自分を押し込めてしまいます。自分にはさまざまな可能性があるという前提でいろいろなチャレンジをして、その経験を糧にしていってください。

そうした実績を積み重ねていけば、もともと自分が持っていた軸を中心として、できることの幅は広げられます。私はもともと前職でセキュリティエンジニアとして仕事を始めましたが、そこからSREやコーポレートエンジニアリング、サービス開発などに担当領域を拡張していきました。自分の好きなことや得意なことを軸にしつつも、どんなものでも食べていくのが、良いキャリアを築くこと、ひいては良い人生を送ることにつながるはずです。

取材・執筆:中薗昴
撮影:山辺恵美子