先進的な取り組みをされている企業のCTOやVPoEの方々と、ファインディCTOの佐藤将高が「エンジニア組織の成長」に焦点をあてた対談インタビューを行う連載企画がスタートします。
第1回のゲストは、国内No.1のレシピ動画サービス「クラシル」を運営するdely株式会社の執行役員大竹雅登さんと、CTO井上崇嗣さん。delyでは、創業CTOである大竹さんが2018年にコマース事業本部の事業責任者に就任し、今年9月に井上さんがCTOに就任されています。
エンジニア組織を拡大させてきたdelyは、これまでどのような課題に直面し、どのように乗り越えてきたのか。前編では大竹さん、後編では井上さんを中心にお話を伺っていきます。
※当インタビューは、感染対策・検温を行なった上で実施しております。
■プロフィール
ファインディ株式会社 取締役 CTO 佐藤将高
東京大学 情報理工学系研究科 創造情報学専攻卒業後、グリーに入社し、フルスタックエンジニアとして勤務する。2016年6月にファインディ立ち上げに伴い取締役CTO就任。大学院では、稲葉真理研究室に所属。過去10年分の論文に対し論文間の類似度を、自然言語処理やデータマイニングにより内容の解析を定量的・定性的に行うことで算出する論文を執筆。
dely株式会社 執行役員(コマース事業本部管掌) 大竹雅登
2014年、慶應義塾大学在学中にdely株式会社を共同創業。2016年に当時唯一のエンジニアとしてレシピ動画サービス「クラシル」を開発し、クラシルを日本最大のレシピ動画サービスに成長させる。2018年からは、新規事業のグロサリーデリバリーサービスを開発するコマース事業本部の事業責任者に就任。
dely株式会社 CTO 井上崇嗣
高校生からプログラミングを経験、大学卒業後はSIerに入社しシステム開発に従事。ゲーム会社にて開発基盤の構築、ベンチャーでインフラエンジニアを経験した後、2018年にdelyへSREとして入社。VPoEとして採用を中心に取り組んだ後、2021年9月にCTO就任。
役割を決めつけず、必要に応じて自分の役割を変えてきた
佐藤:本日は、大竹さんと井上さんのお二人に、これまでのキャリアやエンジニア組織に対する考え方、delyの成長過程における成功や失敗、そして今後の挑戦などについてお伺いしていければと思います。それでは、まずは大竹さんから、改めて自己紹介をお願いします。
大竹:2014年4月に代表の堀江さんとdelyを共同創業してから、7年半ほどになります。創業当初からエンジニアとして、最初はiOSエンジニアリングをしていましたが、基本的には事業の全般を担っていく立場でした。
最初の事業はフードデリバリーサービスで、なかなかうまくいかず撤退。その後ピボットを繰り返し、2016年にレシピ動画サービス「クラシル」を始めました。
最初はSNSに動画をアップロードするだけだったところから、モバイルアプリで「クラシル」というレシピ動画サービスを作っていこうと。当時は、会社に自分しかエンジニアがいなかったので、iOSアプリを作り、バックエンドのAPIサーバーを作り、インフラを作り……といったことを、ひたすらやっていました。
徐々に「クラシル」がサービスとして伸びてきて、採用ができるようになってからは、主に開発組織のマネジメントやプロダクトマネジメントを担っていました。その後、「クラシル」の事業とは別に、グロサリーデリバリーサービスを開発するコマース事業の立ち上げが決まり、2018年10月からはその事業部の責任者をしています。
そして、コマース事業の立ち上げにフルコミットするため、2019年1月に「クラシルのCTO、譲ります」というnoteを公開。今年9月に、井上さんへCTOを引き継ぎました。なので、現在はコマース事業本部の事業責任者として、新規事業を作っているというステータスです。
佐藤:僕自身も2016年にFindyを共同創業をしたのですが、創業CTOとして右も左もわからず、大変な場面もありました。大竹さんも創業CTOで、かつ学生起業からスタートされていてマネジメントも未経験な中、苦労されてきた部分もあるのではないかと思います。5年強のCTO生活を振り返って、今どう感じられますか?
大竹:僕にとっては良い意味で、「CTOがどんな仕事をする人なのか」という前提知識がなかったんですよね。delyを始める前に学生の小さなベンチャーを運営していたことがあり、もともと技術だけでなく、会社や事業、サービスを作っていくことにも興味がありました。
僕がとにかく気をつけていたのは、自分の役割を決めつけすぎないこと。組織や事業が拡大して人が増えたら、みんながパフォーマンスを発揮できる組織づくりをしなければならないし、プロダクトマネジメントもしなければいけない。さらには、採用や外部への発信もしていかなければなりません。
なので、その時の必要に応じて自分の役割を変えて、時間の使い方をアジャストしていくことをひたすら繰り返していました。今、事業責任者をやっているのも、その延長線上であって、自分の中では全然違う方向に進んだとは思っていないんです。
そうした中で、大変なことがなかったわけではないですが、どちらかというと「これも新しい経験だな」と思っていた気がするので、それほど苦労したという感覚はないですね。
佐藤:なるほど。苦労というよりも新しい経験だと捉えて、その時に必要なことをやり続けてこられたんですね。
エンジニアとしての技術力は、あくまで要素の1つ
佐藤:delyを始める前にもベンチャーを運営されていたというお話がありましたが、もともと大竹さん自身としては、どういったところへの興味が強かったのでしょうか?
大竹:僕が一番やりたいことは、多くの人が使ってくれるプロダクトやサービスを作ることなんですよね。高校生の時にiPhoneが発売されて、それを触った時にすごく感動して、「こういうプロダクトやアプリを自分も作りたい」と思ったのがきっかけです。
そういうものを作る方法として、プログラミングに興味を持ったという順番なので、必要なのは技術だけではなく、組織を作ったり、人をマネジメントしたり、ビジネスを理解したり、そういうところまで含めてだと理解していて。もちろんプログラミングができることは、すごく重要ではあるのですが、あくまで1つの要素だと自分の中では考えています。
佐藤:そうした中、当初のdelyでは幅広い役割を担いつつも、エンジニアをされていたのは、どういった背景があったのでしょうか?
大竹:その時に、自分がiOSアプリを作れるスキルを持っていたからですね。自分としては学生の頃から、この先どんどんITやWebサービスでいろんなことができるようになって、価値が高まっていくだろうと感じていました。なので、自分のスキルとして何をコアに持っていたいかと考えた時に、エンジニアリングの力をつけたいと思って勉強していたんです。
delyに入ってからは、CEOの堀江さんはコードを書く以外のところで価値を発揮するので、役割分担をして、自分はプロダクトを作ったり、エンジニアをマネジメントしたり、そういうところに寄せていったというのが一番大きいと思います。
佐藤:Findyも初期は、山田さん(Findy CEO)とCTO兼エンジニアの僕という立ち位置で、ほぼ似たような役割分担でした。当初エンジニアをされていた中で、自分の役割の他にもやっていきたいと考えていたことはありましたか? 例えば、組織のカルチャー作りであるとか、自分の得意なことで堀江さんをサポートしようと思われていたところとか。
大竹:僕は理系出身なので、データや数字には強い方だと思うんですけど、データを見て物事を判断するカルチャーを作ることは、「クラシル」を始めた当初からずっと意識していました。そのために、データを収集して見れる状態にして、それをもとに意思決定する文化を作っていく。そこは僕が主導していった部分かなと思います。
佐藤:たしかに、当初からプログラミング以外にも、データ基盤についてよくお話をされていましたよね。そういったところが今、数値を見ながら開発を進めていくdelyの文化になってるのかなと、外から見ていて感じます。
CTOとしてこれまでにぶつかった、3つの大きな壁
佐藤:これまで大竹さんがCTOをされてきた中で、ぶつかった大きな壁というと、どんなものがありましたか? また、どうやってその壁を乗り越えてきたかをお伺いしたいです。
大竹:大きな壁というと、1つ目はマネジメントですね。2つ目は、エンジニア採用を加速させるために、PRしていく仕事が出てきたこと。3つ目は、事業を作っていくところです。
まず1つ目から順にお話ししていくと、マネジメントを始めたタイミングは、そもそも何をすればいいかわからず、目標設定の仕方もあまり理解していませんでした。
具体的に言うと、例えばDAUを伸ばそうという時に、本当はそれを分解してアクションに落とし込んだ方がいいのに、そのまま「DAUを何%上げる」みたいな目標を設定してしまって、何をすべきかわからずメンバーのパフォーマンスが出ないとか。
なので、メンバーに高いパフォーマンスを発揮してもらえる環境をどう作ったらいいか、その時は他の会社の人たちにひたすら聞いていました。当時Gunosyにいて、今LayerXのCTOをしている松本さんにも、よく話を聞いたりしていましたね。
2つ目の採用に関しては、delyや「クラシル」をPRしていく必要があるので、人に伝える仕事が増えて、仕事の抽象度が一気に上がった感覚がありました。
とにかく人に会いに行って話をしたり、もしくはイベントを企画したり登壇したり。数を重ねること自体の大変さもありましたが、どうやったらエンジニアに面白さが伝わるかなど、自分なりに工夫しながらやっていました。
3つ目は事業を作るというところで、これは単純になかなかすぐにはうまくいかないということですね。「クラシル」ができたから、次もいけるんじゃないかという勝手な期待があったんですが、そんなことはまったくなくて。
何度もピボットを繰り返し、細かいものも含めると年に2回くらいはしていました。決まったものを作るのではなく、何を作るか決める人にならないといけないので、考え方のシフトが必要で、そこは大変だったところです。
「なぜやるのか」という意義を伝えることが重要
佐藤:1つ目のマネジメントの部分に関して触れさせていただくと、例えばFindyのマネジメントでは、前向きな組織を体現しようということで、言葉づかいを大事にして「クソコード」と言わず「伸びしろ」と言いましょう、みたいな話をメンバーにしているのですが(笑)。大竹さんはマネジメントにおいて、どんなことを意識されていますか?
大竹:「なぜやるのか」を常に伝えるようにしています。何を実現するためにその実装をしたいのかを伝えて、あまり理解が深まっていないようなら、時間を取ってディスカッションしたりとか。
もし自分がそれをやる立場だったらと考えた時に、言われたことをただやるだけの仕事は面白くない。場合によっては、違う方法もあるという提案もしてもらいたいし、それができるように「なぜ」の部分をちゃんと伝えるように意識していますね。
佐藤:現場目線に立って、「なんでそんなことやるんだろう」という疑問が解消できるようなコミュニケーションを取られているということですね。
2つ目は、採用に関するお話でした。僕も採用でたくさんの方とお話しさせていただいて、伝える内容を常にアップデートしていくことの必要性を感じています。いかにアップデートしていくかという中で、「これが刺さった」と感じる内容はありましたか?
大竹:もちろん人によっていろいろなケースがありますが、個人的に共通していると思うのは、エンジニアだからといって、必ずしも技術的な内容でアピールしなければならないわけではないことです。
それよりもまず、「なぜそのサービスをやるのか」や「どれくらい社会的に意義があるのか」を、ちゃんと伝える。そもそもそこがクリアになっていないと、技術の話をしても刺さらないことが結構あったので、それをとにかく伝えるようにしましたね。
具体的には、当時「クラシル」というレシピ動画サービスに、なぜ今取り組まなければならないのかを伝えるようにしていました。
僕が言っていたのは、家事としての料理に対して、あまり問題意識が持たれてこなかったけれども、その負担は大きなものであると。家事の中でも、例えば洗濯ならドラム式洗濯機ができたり、掃除ならルンバができたりして、時間の余裕が生まれたのに、料理に関するイノベーションはなかなか生まれてこなかった。
それが、スマートフォンでレシピの動画が見れて、誰でもわかりやすく真似できるようになれば、全然違った生活になっていく。だから、料理をもっと簡単に誰でもできるようにすることは、すごく意義があることなんですよ、と伝えていました。もちろん後で技術的な話もするのですが、そういった部分をまず先に伝えた方がいいと個人的には思っています。
佐藤:「なぜこのサービスをやるのか」という意義をきちんと伝えた上で、そこに共感を持ってもらった人に、技術的な話をしていくというイメージですね。
「CTO、譲ります」から2年、譲る決断ができた背景
佐藤:3つ目は事業のお話でしたが、創業CTOの方は、大竹さんのように新規事業にフォーカスした方がバリューが出ると考えられる方も多いイメージがあります。実際、創業からずっとCTOを続ける方もそれほど多くなく、僕自身もプロダクトにフォーカスした役割が一番パフォーマンスが出そうだと考えて、FindyもCTO候補を募集していました。
大竹さんは2019年にCTOを譲ると公表されてから、2年かけて井上さんに譲るという決断をされていますよね。この決断をされるまでに、どのような背景があったのでしょうか?
大竹:CTOは変わっていった方がいいと思っていて、なぜならフェーズによって求められることが大きく変わるからです。人数の少ない初期の頃であれば、CTOはプロダクトを作る人、もしくは作る人のリーダーであるべきだと思います。
でも、規模が大きくなってくると、いかに安定的に作れるかとか、もっと大規模な基盤を作っていくとか、技術的にディープなところにも入っていく必要が出てきます。そういう時に、同じ人が自分の中で切り替えられるかというと、なかなか難しい。なので、必要であれば、変わることは重要だと思っています。
僕としては、技術がわかっていて、かつビジネスや事業についてもわかってる人は、希少性が高いと思うんですよね。僕自身、そういうポジションでバリューを発揮できればいいと思っていました。
2019年1月に記事を出してから、いろんな人と会って話したんですが、その時は技術的なところを重視して会っていました。でも、delyはカルチャーや価値観を重視しているので、その人がdelyに入ることをイメージした時に、あまりマッチしないなと思う人もいて。なので、ずっと採用活動を続けていたわけではなく、一旦ペンディングしていたんです。
井上さんにCTOを任せることにしたのは、まず第一にカルチャーや価値観がフィットしていたから。その次に、技術的なところを見て意思決定したので、うまく委譲できたんじゃないかと思っています。
佐藤:すごく素敵なお話ですね。カルチャーの部分は、元から会社として大事にしていきたいと考えているポイントだったのでしょうか?
大竹:そうですね。これにはきっかけがあって、もともと最初のフードデリバリー事業をやっていた時は、カルチャーもなかったし、バリューも作っていなかったんですよ。
ただ、事業が成長している時は、成長しているからこそ興味を持ってくれる人もいますが、事業がうまくいかなくなれば、みんな「なんでこの会社で頑張る必要があるんだっけ?」と考えるわけです。その時に、共有しているカルチャーや価値観がないと、心の拠り所がなにもない。そういう理由で辞めていってしまった人も、結構いたんじゃないかと今は思っています。
「クラシル」を始めた時は、文字通り第二創業のような形だったのですが、そういった経験をした後だったので、まずはカルチャーや価値観を重視して、採用や組織づくりを進めるようにしていました。
佐藤:なるほど。過去に失敗した経験があるからこそ、カルチャーや価値観がマッチする方を採用していくことがマストになっているんですね。
後編に続く
後編では、VPoEとしてdelyのエンジニア組織拡大を牽引し、今年9月にCTOに就任された井上さんとのトークを中心にお届けします。