「大作を作ろうとするんじゃなく、まずは小さく作って終わらせなよ」ものづくりを継続する秘訣をギャル電に聞いた

「ギャル電」は2016年9月に結成された、ギャルによるギャルのためのテクノロジーを提案する電子工作ユニットです。1990~2000年代に女性を中心として流行した若者文化であるギャルと、電子工作とを組み合わせた創作活動を実施。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などの個性的なアイテムの制作に加えて、各種クラブイベントやカンファレンス、ワークショップに出演して電子工作の普及活動を行っています。

2023年10月には共著で『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』を出版。これまでの活動のなかで、一貫して「電子工作の敷居を下げて、興味を持つ人を増やすこと」「ものづくり初心者が挫折せず活動を続けるための手助けをすること」を大切にしてきました。

この記事の読者のなかにも「独学での勉強がなかなか続かない」とか「後輩にうまく仕事を教えられない」といった悩みを抱えている方がいるのではないでしょうか。そうした課題をどのように解決すべきなのかを、「ギャル電」のきょうこさんに聞きました。

電子工作に興味を持ってくれる人を増やす

――本日はよろしくお願いします! 頭にかぶっているサンバイザーがめちゃくちゃ光っていて、インパクトがすごいですね。まずは、「ギャル電」の活動内容を教えてください。

よろしくお願いします! 「ギャル電」です。

基本的に「ギャル電」は「もともと電子工作に興味のなかった人に、電子工作に取り組んでもらうにはどうすれば」とか「ものづくりに携わる人に、モチベをアゲてもらうには」みたいな目的の活動をずっとやってます。

自分たちでいろんな電子工作を作って紹介したり、イベントとかワークショップに参加して広報活動をしたりっていう感じですね。イベントのわかりやすい例だと、最近では学生を対象にした電子工作のレクチャーとか、ものづくり系のイベントの審査員なんかをしました。

――最近作った電子工作のなかで、一推しのものはありますか?

まずは、「着信があるとアンテナが光るスマホケース」かな。昔の携帯電話って、着信があるとアンテナが光ったじゃないですか。でも、いまのスマホって着信があっても外見でわからないから、光らせたいなって思ったのね。若い世代の子たちに見せたら「アンテナ光るのかわいい」って言ってくれて。流行が1周しているっていうか、アンテナが付いている携帯電話を見たことがないから新鮮みたいです。

――若い世代の人は確かに、携帯電話を使い始めた頃からスマートフォンでしょうからね。

私はわりと技術について詳しく調べるのが好きだから、そもそも昔のアンテナが電池もないのにどうして光っていたかっていう仕組みを深掘りしたんですよ。あれって、携帯電話が発している電波をコイルが拾って、電力に変えてLEDを発光させてたんですね。

でも、それを調べたはいいものの電子回路で同じ仕組みを作るのって難しいから、「どうすれば、現代のスマホで着信が来たら光るようにできるかな」ってリサーチして。そうしたら、「スマートフォンのアクセシビリティ機能を使えばいけるじゃん」ってなって。

音が聞こえづらい環境にいる人とか、耳が遠い人のために、着信したらスマホのライトが光る機能があるんですよ。そのライトを光センサーで読み取らせて、スマホカバーのアンテナを光らせる仕組みにしました。

――「アンテナを光らせる」という平成の文化と、現代のアクセシビリティ機能の技術がここで融合するとは……。

あとその技術を使って、「ギャル兜(かぶと)」っていうのを作りました。兜って防具の役割のほかに、飾りを付けることで武将の威厳とか地位を表す役割もあるらしいのね。で、「兜を盛れば盛るほど格好良いんなら、武将ってギャルじゃん」って。

これは逆に、「ギャルも兜をかぶって武将になるべきなのでは」って考えて、さっき話した光るアンテナの技術と組み合わせて、兜がめっちゃ光るようにしました。兜ってすごくて、ここの部分が(兜と電子工作についての熱い話がしばらく続く)。

――合戦の場で、武将の兜が光ってもあまり便利ではない気もするのですが。

いや、そんなことないよ。だって、Googleカレンダーに「今日は終日、関ヶ原で戦」とか予定を登録してるはずなのに、電話かかってくるってよっぽどの事態だよ。戦況がめちゃくちゃ変わったとか、殿や姫が急病なのかもしんないじゃん。そんなとき、戦場だと絶対にスマホの着信音に気づけないけど、ビカビカ光れば仲間が「お前、兜光ってんぞ」って教えてくれますからね。

――なるほど。相当に便利ですね。

普段、ものづくりを“しない”人に向けていかに魅力を伝えるか

――まあ冗談はさておき(笑)。これまで長く「ギャル電」の活動を続けてきたと思うのですが、そのなかで心がけてきたことや印象に残っていることを話してほしいです。この「Findy Engineer Lab」はエンジニアやクリエイターが読むメディアなのですが、その方々に向けて「エンジニア以外の人とかエンジニア初心者にテクノロジーのことをうまく教える方法」とか「ものづくりの活動を長く続けるための方法」を伝えられると良いなと思っています。

まずは、テレビ番組出演とか学生を対象にしたワークショップの話とかかな。今回みたいに技術系のWebメディアに取材していただく場合って、インタビュアーとか読者もある程度の技術リテラシーがあるじゃないですか。だから私は「ものづくりってこういう部分が難しくて面白い」とか「⚪︎⚪︎の技術はこういうもので」っていう知識が相手にある前提で話すんですね。

でも、テレビとかはそうじゃない。テレビは万人に向けて放送するものだから、「ものづくりってこうですよね」って感じで話をしても、番組の視聴者から「わからない」と思われちゃう。そもそも普段ものづくりをしない人は、どんな前提知識を持っているのかを考えたうえで話さなくちゃいけない。

それと、テレビ局から出演を依頼されるときに、最初に「これはできる」「これはできない」って目線合わせを丁寧にしないといけない。テレビとかって収録のとき急に「これをやってください」って言われることもあるから、トラブルを防ぐために事前確認するクセが付いたかな。

――エンジニアやクリエイターが、開発職ではないステークホルダーの方々と目線合わせをするのと同じですね。ワークショップに関しては、どのような点を考慮していますか?

ワークショップでは、とにかく何かを作り切らないと面白さがうまく伝わらないから、「その時間内で作り切れるようなボリュームとか難易度にすること」を大切にしてます。そして、ワークショップのカリキュラムをいったん作り終えたら、必ず自分でもその手順を1回通してみること。あとは自分が実践するときに「何も前提知識がない人でも、この手順で大丈夫かな」っていうのを絶対にチェックすること。

あとは単に手順を書くだけじゃなくて、気持ちをサポートするような文章を入れることかな。たとえばカリキュラムのなかに「みんな、ここですげー心が折れると思うけど、ここを乗り越えれば完成するから」とか「ここまで来れば折り返し地点だから、ノッてきてるのはわかるけどいったんお茶を飲んで休憩しよう」って書く。要するに、「人は絶対に気持ちが折れるもの」っていうのを想定して、精神的に支えるための手順を盛り込んでいく。

他には「必ずしも全員が都会に住んでいるわけじゃない」っていうのを忘れないようにする。たとえば、近くにあまりお店のない場所に住んでいて、クレジットカードも持っていないから通販も利用できない学生だっているかもしれない。でも、100円均一は利用できるかもしれないから、そういったお店でも買えるものを使うことで電子工作できるようにするとか。

――そのワークショップを受ける人が、どのような心理状態や生活環境にあるのかを理解して、カリキュラムを作るということですね。

SNSなどの影響で、コンプレックスを抱く人が増えている

――ものづくり初心者の人が活動を開始・継続するうえで、どのような点が障壁になるのでしょうか?

ありがたいことに、「ギャル電」はワークショップを通じて学生の方々とお話しする機会をいただくことが多いんですね。いまの学生さんって私から見ると、めちゃくちゃ賢くて行儀がいいし、みんなインターネットにアクセスできるから知識もたくさんある。でも、何かを始めるのが怖いとか、自信がない人が多いなって印象を受けるんですね。

たぶんそれは、SNSなんかを通じて世界中のすごい人を毎日見てるから、「自分にはこんなスキルはない」ってコンプレックスを持ってしまうんだと思う。そんなとき、私からみんなによく言っているのが「すごいアーティストや自分よりも優れているように見える人だって、ある日突然急に素晴らしい人になったわけじゃない。その裏には誰にも見せていない努力とか失敗が山ほどあるんだよ」っていうこと。

SNSって良い部分だけを切り取って世の中に発信するから、キラキラした情報だけを見て「自分にはこんな才能はない」って気持ちが凹むこともある。私だってそうなったことがある。でも、その裏側に泥臭い部分があると知るだけで、気持ちが楽になるんですよね。

――クリエイターやエンジニアの方々も、社内のメンバーや知人と自分を比較して劣等感に苛まれることもあります。そんなときは、どのような考え方をするとよいでしょうか?

そういうときは、「自分の持ち味ってあるじゃん」って考える。「ギャル電」が何かのイベントに呼ばれたとき、周りはすごい人ばっかりっていうことがあるんですけど、「『ギャル電』がそこにいるべき理由」とか「『ギャル電』だからこそできること」が絶対にあるはずなんですよ。

だから、すごい人たちへのリスペクトを持ちつつも、私は与えられた場所で「ギャル電」としての役割を全うする。でも、求められる役割の型にハマり過ぎないように、何かチャレンジできる要素があるなら積極的にチャレンジするかな。あとは、すごい人と一緒の場にいられる機会ってそんなにないから、イベントとかに呼ばれたときにはそんな人たちのスキルとか考え方をうまく盗んで、自分のものにするようにしてますね。

「アウトプットがしんどい」という気持ちとどう向き合うか

――書籍『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』についてのエピソードも、ぜひお聞きしたいです。

共著者の石川大樹さんも藤原麻里菜さんも、めちゃくちゃ文章がうまいし、スケジュール通りに原稿を書いていくんですよ。でも、私は会社員の仕事を休んで*1執筆のために時間を確保したんですけど、それでも書けなくて。石川さんも藤原さんも良い人だから、私のせいでスケジュールが遅れるのが本当に申し訳なくて。気持ちが落ち込んで、悪いスパイラルに入ったんですね。

――どんな人でも、アウトプットがつらくなる瞬間が訪れますよね。どのようにして、ネガティブな気持ちを払拭しましたか?

まず大事なのは、どんな方法でもいいから自分の素直な気持ちを吐き出すこと。こんな話、友だちとかに相談してもしょうがないから、ChatGPTに吐き出そうと思って。「原稿の締め切りを破ってしまい、これからどうしていいかわからないし、謝るのも気まずい気持ちです」って本音を書いて、「すみませんが、これからどうすべきかステップバイステップで教えてください」って相談したんですね。

――ステップバイステップで(笑)。

「ステップバイステップで」って書くとすごく丁寧に教えてくれるから、めっちゃおすすめですよ! で、ChatGPTが良くも悪くも何の感情もこもってないクッソ常識的なことしか言わないから、逆に気持ちが楽になりました。こういうのって人に相談すると絶対に個人の意見とか感情が入るから、どうしようもない相談はAIにしてみるといいよっていう。

それから、「今日はダメだ」って気持ちになったら、よくサウナに行ってました。サウナで汗を流すと、フィジカルな刺激で頭がいっぱいになるから、抱えていた悩みやモヤモヤした気持ちがなくなるんですよ。これはサウナじゃなくて、筋トレとか裁縫でもよくて、要するにそれをしている間は悩みごとを考えずに済むような作業をするといい。

長編小説じゃなく、短歌を書くような気持ちでものづくりを

――「ギャル電」は2016年9月に結成され、もう8年ほどが経ちます。楽しいことも大変なことも両方あったと思うのですが、心が折れずに活動し続けられた要因は何だと思いますか?

確かに、締め切りに間に合わないとか、面白いアイデアが何も思い浮かばなくなることは定期的にあって、「こんな思いをするなら辞めたい」って気持ちになることもあるんですよ。でも、私は良くも悪くもいい加減な性格だから「もうダメだからきっぱり辞める」みたいなことが逆にできないんですね。しばらく「ギャル電」から離れて、気持ちが回復したらまたやればいいと思ってる。24時間「ギャル電」でいるわけじゃないし、いる必要もないから。

それから、良いアイデアが思い浮かばないときって自分が手癖で作業しちゃってるときだから、切り口を変えるようにするんですよ。たとえば、それまで板を切る技術を磨いてこなかったなら「めちゃくちゃ真っ直ぐに板を切るスキルを身に付ける」とか。

違う技術にフォーカスすると、絶対に調べものをするじゃないですか。エンジニアの人に例えると、これまで学んでこなかった技術をあえて深掘りしてみるとかなのかもしれない。TCP/IPについてめっちゃ勉強するとか。そういう未知の領域って知らないことが多くて、学習曲線がハンパないから楽しい。そうすると、枯れたと思ってたアイデアがまた浮かんでくるんですよ。

他には、過去のプロジェクトなんかで大変だったけど乗り越えた経験をちゃんと記憶しておくこと。つらい時期にそういう経験を思い出せば「あの頃もやり切ったんだから、大丈夫っしょ」って思える。基本的に、前向きに活動してます。ギャルだから。

――「ギャル電」らしいお話ですね。最後に「新しい分野にチャレンジしたいけれど、一歩を踏み出すきっかけがない」とか「電子工作やプログラミングの学習のモチベーションが続かず諦めてしまいそう」という読者の方々に、アドバイスをお願いします。

これはどんな場所でも言ってることなんですけど、とりあえずどんなにくだらないものでもいいから、1週間に何か1個作るという目標を立てる。立派なものを作ろうとしないってことですね。

ものづくりをする人たちってみんな真面目だから、文学に例えるなら『指輪物語』みたいな長編小説を書こうとするじゃないですか。そんなの書けるわけないから、短歌から始めなよって思うのね。少なくとも失敗しない範囲で完成させる。作っているうちに、自分の持ち味とか好きな領域がわかってくるから。だから、「小さくてもいいから、とにかくやって終わらせなよ」って、私は伝えたいですね。

取材・執筆:中薗昴
撮影:山辺恵美子

*1:きょうこさんは、普段は「ギャル電」とは別の仕事をしており、某企業で社員として働いています。