SansanのVPoEが自ら困難に立ち向かって学んだ、開発組織のマネジメントで「成果にこだわる」大切さ

2024年4月、名刺管理や契約書、請求書などの分野でDXサービスを展開するSansan株式会社のVPoE(Vice President of Engineering)に大西 真央(おおにし まお)さんが就任しました。

大西さんは2016年の入社以降、大阪開発拠点の立ち上げ、新規事業におけるエンジニアリング組織の立ち上げなど、数々の重要なプロジェクトを成功に導いてきました。経験したことのない領域や困難な課題を前に、なかなか成果が出ずに心が折れそうになったこともあったといいます。そんなときも、逃げることなく成果を求め続けてきました。

どんな壁でも必ず乗り越えてきた強さの原動力となっているものは何か。それを探るべく、VPoEとしての取り組みや心構え、これまでのキャリアを通して培ってきた信念について伺いました。

目的を深く考え、その達成のために行動する組織をつくる

――大西さんがVPoEに就任されて1か月が経ちました。現在の役割と取り組みについて教えてください。

SansanにおけるVPoEの役割は、エンジニアリング組織に対してリーダーシップを発揮し、プロダクトによる価値提供のスピードと質を高めていくことです。 現在は、各プロダクトを担当する開発部長たちと共に「経営チーム」を組成し、さまざまな課題の解決に取り組んでいます。

Sansanはこれまで日本のSaaSビジネスをリードし、日本のスタートアップ市場の発展に少なからず貢献してきたのではないかと考えています。しかし、Sansanも含めて日本にはまだグローバルで通用するプロダクトを作っているソフトウェア会社は存在しません。このグローバルの壁をSansanが突破すること、それによって日本のSaaSビジネス全体の成長に寄与することを目指しています。

そこで現在、グローバル市場で競争力のあるプロダクトを生み出すための優秀な人材の採用と育成に力を入れています。 とくに優秀なエンジニアの採用は急務です。また育成面では、ジュニアからシニアまで、それぞれの成長フェーズに合わせたマネジメントができる仕組みづくりを進めています。

――具体的にはどのようなマネジメントを意識しているのでしょうか? 

Sansanのエンジニアリング組織では、何よりも「成果にこだわる」ことを大切にしています。そのためには、メンバー一人ひとりが高い目的意識を持ち、主体的に動けるような組織でなければなりません。

たとえば、開発組織の規模を30人に拡大するという目標を立てたとします。一見わかりやすい目標のように思えますが、これはあくまでも手段に過ぎません。本当に重要なのは目標の先にある「売上を最大化する」「プロダクトの普及によってユーザーのビジネスを加速させる」といった目的なんです。

私が目指すのは、こうした目的をしっかりと理解し、そのために行動できる組織です。目的意識の高いメンバーは、自ずと成果に向き合い、目的達成のための手段を柔軟に選択していくことができるからです。

反対に、目的を見失ってしまうと、本来の方向性から逸脱してしまう危険性があります。手段だけにとらわれて、本来の目的を忘れてしまうのは本末転倒だといえるでしょう。

――大西さんの言葉からはVPoEとしての責務の重さと、確固たる信念が伝わってきます。 なぜそういった考えに至ったのかを知りたいです。

エンジニアとしてのキャリアを通して、これまで培ってきた経験が影響しています。とくに大きかったのが、VPoEに就任する以前、新規事業「Bill One」の立ち上げを主導した経験です。 Sansanの中にありながらも、ゼロからのスタートアップともいえる環境の中で開発チームをリードできたことは、 自分にとって大きな転機となりましたね。

「リミッターを外せ」変化の激しい環境下でのチャレンジ

―― VPoEに就任するまでの経験が今の大西さんに大きな影響を与えているのですね。その新規事業「Bill One」の立ち上げについて聞かせてください。開発チームはどのような状況でスタートしましたか?

「Bill One」は、請求書の受領・管理をデジタル化するインボイス管理サービスです。 もともとビジネスサイドで「Bill One」事業が立ち上がり、そこに私がプロパーのエンジニアとして参加し、開発チームの立ち上げを任されたのが始まりです。

立ち上げ当時はエンジニア4名で開発をスタートしましたが、最初の1年はまったくプロダクトが売れなかったんです。事業の方向性も流動的でピボットを繰り返していました。 ですが、立ち上げから2年経つと、コロナの影響もあって「Bill One」へのニーズがどんどん高まり、事業は急激に成長していきました。それに伴い、開発チームも急拡大する必要があったんです。

―― 事業が伸びてから、メンバーはどのくらい増えたのでしょうか?

だいたい半年くらいで5名から一気に30名、その後2年で50名規模まで拡大しました。 いままでに経験したことのない急激な組織拡大でしたね。

開発チームの立ち上げと拡大に際して、私は当初、段階的にチームを増設しようと計画していました。しかし、経営サイドからは「それではビジネスのスピードに追いつかない」と指摘され、より大胆に組織をスケールさせることを求められました。そこで自分が「このくらいならできそう」と自分自身の能力にリミッターをかけていたことに気づいたんです。

リミッターを外すことに対しては、もちろん不安を感じていました。しかし、代表である寺田が「大西を一人にさせるな」と役員陣に声をかけてくれて。しんどくてもサポートしてもらえる体制を整えてくれたおかげで、ネガティブにならずに高い目標にコミットする決断を下せました。一緒に働くメンバーと前を向いて、必ず成果を出そうという気持ちになれましたね。

泥臭く、逃げずにやり切った開発拠点の立ち上げ

――開発組織の急拡大という未知の領域にも、前向きに挑戦してこられたことが伝わります。そのチャレンジ精神や粘り強さはどこからくるのでしょうか?

性格的な部分もありますが、やっぱりSansanで大阪に開発拠点を立ち上げた経験は大きいかなと思います。会社としても地方拠点を立ち上げた経験がなく、何もわからない状態からのスタートでした。でも、一定の時間をかけて成果を出すことができたんです。

ゴールが見えないなかで物事を前に進めていくのは大変です。自分1人ではできないことも、時間をかけて仲間を集めて一緒にやれば成果につながる。そういった経験によって、諦めずにやり切ることの大切さを学んだのが大きかったですね。

――開発拠点立ち上げ当初は苦労も多かったそうですね。

何より大変だったのがエンジニア採用です。 当時、Sansanの知名度は東京ほど高くなく、 大阪ではとくにエンジニアへの認知度が低かったんです。そこで、勉強会やイベントへの登壇、エージェントとの関係構築などの地道な活動を続けました。

しかし、1年経ってもなかなか成果は出ず、 正直心が折れそうになった時期もありました。でもそこで逃げずにやりきった。すると1年半が経過したころ、ようやく採用が軌道に乗り始めたんです。 最初の1人が決まってからは、次々とメンバーが増えていきました。

開発拠点の立ち上げで得られた教訓が2つあります。1つは「徹底的に成果にこだわる」こと。もう1つが、先ほども言いましたが「逃げずにやり切る」ことです。

「徹底的に成果にこだわる」は今でも大事にしている価値観です。ノウハウがない状態で何かを始めるなら、自分がどう動くかが重要です。「自分はやったことがないのでできません」というスタンスでは、当然何も始まりません。やったことがなくても、少しでも可能性があるなら飛び込んでいくチャレンジ精神が必要です。これは成果にこだわるからこそできることです。

また、なかなか成果が出なくても逃げずにやり切ること。やりきった先で一つの花が開いた瞬間にポンポンと周りの花が咲くような経験は自信につながります。新規事業立ち上げのときも同様の経験をして、これが自分の信念となりました。

組織を率いるなかで自覚したマネジメントへの適性

――大西さんはこれまでに開発拠点の立ち上げやエンジニアリング組織の立ち上げをリードし、今ではVPoEとしてエンジニアリング組織全体を管掌されています。マネジメントについては最初から苦手意識はなかったのでしょうか?

自分ではマネジメントは得意だと思っていますし、これまでメンバーに対しても違和感なくリーダーシップを発揮できてきたと思います。マネジメントが強みの一つだと気づいたのは前職時代です。

前職では、システムエンジニアとして顧客先に常駐する形で仕事をしていました。要件定義から設計、開発、テストまでの一連の工程に携わるなかで、 常駐先の業務を理解してニーズを引き出したり、 チームのメンバーと連携してプロジェクトを前に進めたりするコミュニケーションの重要性を学びましたね。 

入社から7年目に通信事業を展開する会社に出向したのですが、そこでの経験を通して、自分にはマネジメントが向いているのだと感じました。

――それは一体どのような経験だったのでしょうか?

当時、出向先ではアジャイル開発やドメイン駆動設計を始めようというタイミング。その初期メンバーとして開発組織を変えていくというチャレンジングな機会に恵まれました。

それまでのウォーターフォール型の開発とはまったく異なるアプローチに戸惑いもありましたが、 本を読み漁って知識を身につけ、チームのメンバーと試行錯誤しながら開発プロセスを確立していきました。さらに、アジャイル開発の手法を社内の他のチームにも広げていく役割も担いました。 メンバーを巻き込み、変革を進めていく難しさを実感する一方で、 自分の行動が組織に影響を与える面白さにも気づいたんです。 

チームをリードし成果を出すことができた経験を通して、「自分の力だけではなく、メンバーをマネジメントすることでより大きなインパクトを生み出せる」 そんな気づきを得られたのが大きな収穫でした。

――大西さんが組織づくりやマネジメントで大切にしている考え方を教えてください。

組織づくりやマネジメントにおいて私が最も大切にしているのは、「成果にこだわる」ことです。つまり、常に事業の成果や、ユーザーに提供する価値を意識して物事を判断し、行動するということです。

この考えを組織に浸透させることで、メンバー一人ひとりが自分の仕事を通じてどのように会社や事業の成長に貢献できるのかを意識するようになります。新しい技術を導入するにしても、ユーザーに与える価値が向上するか、ビジネス上の成果につながるかどうかを判断基準とすることで、本当に重要なことに集中できるようになるのです。

また、成果にこだわるというマインドを持つことは、メンバーのモチベーション向上にもつながります。自分の仕事が会社の成長に直結していると実感できれば、やりがいを持って働くことができますし、そうした成果は正当に評価されるべきだと考えています。

一方で、成果を出すためにはさまざまな工夫も必要です。私は『最高を超える』という本から多くの示唆を得ていますが、たとえば「基準を上げる」「人とカルチャーのベクトルを合わせる」「焦点を絞る」「ペースを上げる」「戦略を転換する」といった点を意識しながら、日々のマネジメントに取り組んでいます。

――成果とは、具体的に何を指しますか?

私たちが目指すべき最終的な成果は、会社の売上や利益の増加といった経営指標の向上です。しかし、エンジニアリング組織の立場から考えると、その成果はすぐには見えづらいものです。

そこで、エンジニアリング組織として直接的に目指すべき成果は「アウトプット量の増加」だと考えています。これは、新機能の開発やサービスの改善など、エンジニアリングの力で生み出される目に見える成果を指します。私たちの仕事が、ユーザーに価値を届け、事業の成長に貢献するものであれば、アウトプットを増やすことが業績向上につながるはずです。

ただし、ここで注意しなければならないのは、アウトプット量の増加だけを目的化してはいけないということです。私たちの活動は、常に事業成果やユーザー価値につながっているかどうかを意識する必要があります。

難しいことにチャレンジし続ければ大きな成果につながる

――今後、どのようなことにチャレンジしていきたいですか?

今は、グローバルで通用するプロダクトを作るためのエンジニアリング組織を育てていきたいです。具体的には、人材育成の仕組み化に取り組んでいこうと考えています。

組織の成長を加速させるためには、高い能力と意欲を持つメンバーの育成に力を入れることが重要です。彼らに挑戦的な目標を与え、その能力を存分に発揮できる機会を提供することで、組織全体のパフォーマンスを引き上げることができます。また、そうした優秀な人材を部署の垣根を越えて活躍させることで、会社全体の成長スピードを最大化することも狙いの一つです。

――大西さん個人として、今後の展望はありますか?

実は、個人的には将来的にこうしたいというビジョンがあまりないんです。むしろ、「今、何をするか」に強い関心があります。

現在はVPoEという役割を与えられ、そこに集中して取り組んでいる最中です。いつか一定の成果を出し、やり切ったと思えるようになったら、そのタイミングで次に何をしたいかを考えることになるでしょう。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

キャリアにおいて選択肢が2つあるときは、より難しいほうを選ぶことをおすすめします。なぜなら、簡単なほうを選んでも、得られる成果は小さく、自分自身の成長にもつながりにくいからです。

一方で、難しいほうを選ぶことで、大きな成果を得られる可能性が高まり、自分自身も大きく成長できるでしょう。日頃から難しいチャレンジや選択をし続けることが大切です。

その際、途中で逃げ出さずにやり遂げるのが大切です。成果にこだわり、たとえゴールが見えなくても最後までやり抜く姿勢を持ち続けてほしいです。そうすればきっと大きな成果に結びつくはずですから。

 

取材・執筆・文責:河原崎 亜矢
編集・制作:Findy Engineer Lab編集部