Findy Engineer Lab

エンジニアの"ちょい先"を考えるメディア

あなたのキャリアに影響を与えた本は何ですか? 著名エンジニアの方々に聞いてみた【第四弾】

書籍には、特定領域の専門家たちが習得してきた知識のエッセンスが詰まっています。だからこそ「本を読むこと」は、ITエンジニアがスキルを向上させるうえで効果的な取り組みと言えます。では、著名エンジニアたちはこれまでどのような書籍を読み、そこから何を学んできたのでしょうか。今回は7人の著名なエンジニアのキャリアに影響を与えた“珠玉の書籍”を、ご本人にまつわるエピソードとともに紹介してもらいました。
*…人名の50音順に掲載。回答者は敬称略。

あらたまが紹介『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』

なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践eijipress.co.jp

かつての私は、あらゆる課題に対して「とにかく頑張る」以外の選択肢を持っていなかったのですが、そんな自分の視座を一段上げ、武器を増やすきっかけを与えてくれた本のひとつが本書です。「成人発達理論」を下敷きにした本書には、「頑張る」以外の自己成長への道標だけでなく、チームで壁をどのように認識し、乗り越えるかのヒントがふんだんに散りばめられていて、今でも読み返すたびに新しい発見があります。

また、著者はインタビューで成長について、「一歩引いて、自分自身をより大きな視点から見つめ直すことで起こるもの」と表していました。私の記事で紹介した「キャリアの棚卸し」にも、そうした本書のエッセンスが色濃く反映されています。ぜひセットでお楽しみください!

【プロフィール】
国立音楽大学卒業後、DeNAでソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。その後はセオ商事、ロコガイドを経て、Cake.jpにて執行役員CTOを務めた。現在はソフトウェアエンジニアとして、LayerXにて「バクラク申請・経費精算」の開発を行っている。趣味は全国津々浦々のサウナ探訪。「日本もちもち協会」代表。
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小田中育生が紹介『Measure What Matters: 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法OKR』

bookplus.nikkei.com

個人や組織の目標設定のためのフレームワーク、OKR。私は本書を読んだことをきっかけに、当時所属していた組織にOKRを導入することを決めました。本書を読むことで、ありたい姿を目標(Objectives)とし、その目標達成に近づいていることを示す成果指標(Key Results)を設定するこのシンプルなフレームワークが実に効果的なものであると知ることができます。

達成が約束された安パイな目標から、ちょっとおじけづいてしまうような、けれども何がなんでも達成したくなるようなワクワクする高いレベルの目標へ。とにかくたくさんの指標を追いかける状態から、本当に大切な指標へと狙いを定めて機動的に行動するチームへ。

OKRがいかに目覚ましい成果を生み出すか、OKRを使いこなしていくために気をつけるべき点は何か。そういった実践知が詰まった本書を片手にOKRと向き合うこと数年間、私たちの組織はそれまでにない目覚ましい成果を生み出せるようになりました。

そして、その成果や成果を生み出すまでのプロセスは私が組織の外へと発信していくきっかけとなり、キャリアの新たな局面を切り拓いてくれました。

【プロフィール】
2007年 外資系半導体企業に新卒入社。2009年 株式会社ナビタイムジャパンに入社し、研究開発部門に配属。
プロダクトや開発プロセスのカイゼンを推し進め、2019年VP of Engineeringに就任。2023年10月にエンジニアリングマネージャーとして株式会社カケハシにジョイン。著書に『いちばんやさしいアジャイル開発の教本 人気講師が教えるDXを支える開発手法』(2020年、インプレス、共著)がある。
X:@dora_e_m

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風間裕也が紹介『ソフトウェアプロセス改善手法SaPID入門-現場力を引き出すシステムズアプローチ-』

www.juse-p.co.jp

私は『ソフトウェアプロセス改善手法SaPID入門-現場力を引き出すシステムズアプローチ-』(日科技連出版社)を読んだことによって、仕事の幅が広がりました。

この書籍は単なるプロセス改善手法の話ではありません。メンバーが問題に感じていた部分をファシリテーターが引き出し、そこから事実と感情を分けて表現するにはどうすれば良いかが体系的に書かれています。

例えば、「自動テストがない」という問題点について考えます。これは一見問題のように見えて、「自動テストがあれば良いのになぁ…」という対策ありきの事柄です(書籍内ではこれを「対策型」と呼んでいます)。このような場合に、出てきた事柄自体は否定せず(「それは問題点ではありません」などと発言せず)、受け入れた上でどのように問題を深掘りしていけば良いかが書かれています。

また、深掘りの結果から、多数の問題を構造化して捉え、そこから「次の一歩」となる改善策を探し出します。あくまでも現場に寄り添って考え、改善することを目指しているのです。これらをSaPIDというやり方の中で紹介しているのですが、普段の皆さんの振り返りでの手法(例えばKPTなど)にも活用できます。

ここから私は「ファシリテーターとしてどのように真の問題点を引き出せば良いのか(レビューにも応用)」、「問題をどのように構造化して捉えれば良いのか(テスト分析にも応用)」、「どのように改善していけば良いのか(振り返りにも応用)」といったことを学ぶことができました。これらの学びは、本業のQAエンジニアに活用するだけでなく、副業で行っている「組織が抱えている問題点のヒアリングおよびアドバイス」にも活用できています。

なお、著者の安達さんは定期的にSaPIDワークショップも開催しています。このワークショップに参加すると、さらに理解が深まると思いますので、気になる方はそちらへの参加も検討してみてください。

【プロフィール】
電気通信大学大学院修士課程修了。ワークスアプリケーションズに入社後、学生時代から興味のあった品質やテストに関わるためQAチームへ異動。ビズリーチを経て2023年5月から10Xの品質管理部に所属し、現職。B-Testingを開設し、社内外を問わず「どのようにテストを考えれば良いか」を日々エンジニアに伝えている。
X:@nihonbuson

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小林謙太(kobaken)が紹介『組織開発の探究』

www.diamond.co.jp

この本は、人、組織にまつわる人類の試行錯誤の歴史を100年総ざらいする本です。

チームで働く人たちがどうしたら生き生きと働けるのか悩んでいたときに、手にした本でした。当時、そんな悩みに関連するバズワードだったのが、「1on1」や「心理的安全性」といった言葉でした。しかし言葉の意味はわかっても、具体的にどう実践してよいかわからないと感じました。また、これで全てが解決するとは到底思えなかったです。

この本は、表層的な理解に背景を与え、バラバラの知識を線で結びつけるのにうってつけでした。例えば、開発生産性の指標であるFour Keysの利用は、診断型組織開発の一種としてメタ認知できます。

また、専門的な書籍や論文の引用も多く、次の課題を探すのにも有用でした。おかげで何冊も読みたい本ができました。ソフトウェア工学界隈に閉じていた視野が、爆発的に広がった本でした。

ただ、冒頭の問い。チームで働く人たちがどうしたら生き生きと働けるのか?この問いはいまだに難しいです。ですが、この本の内容にある通り、人類が100年試行錯誤しているのだから、いい意味で諦めもつきます。引き続き、挑戦していきたいです。

【プロフィール】
個人事業主として、はてなで開発をしつつ、起業準備中。過去、モバイルファクトリーにてエンジニア組織開発責任者として、人材開発、採用、技術広報などに取り組む。Findyでは開発生産性の可視化ツールの開発。また、技術コミュニティでは、Japan Perl Associationの理事として、YAPC::Tokyo 2019、YAPC::Japan::Online 2022、YAPC::Hiroshima 2024のリードや、CTO協会にて育成ワーキンググループに参画している。
GitHub:kfly8 X:@kfly8

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hikaliumが紹介『500円でわかるエラーメッセージ』

hon.gakken.jp

2000年代の初頭、私はまだ、OSというものの存在を知らない、どこにでもいる普通の小学生だった。Windows 95, 98, Meが使われていたその時代、私は祖父のパソコンでゲームをすることを覚えたばかりだった。標準で入っていたピンボールやマインスイーパー、それ以外にも、レミングス、インクレディブル・マシーン3等々、中毒性の高いゲームに熱中する私の天敵は、ゲームの外に潜んでいた。

ボンッという低い音と共に現れる、赤い丸に白いバツのアイコン。「不正な処理をしたので強制終了します」と恐怖をあおってくるエラーメッセージ。そして突如として目の前に広がる鮮やかなブルースクリーン。それらに遭遇するたびに、私はディスプレイの前から逃げ出していた。

ある日、祖父がこの冊子を手に帰ってきた。怖いもの見たさで、私はちらっとページをめくってみた。うわあ、怖い!
でも……知らないのがいっぱいある!
おもしろ画像以外にも、そこには未知の言葉がたくさんあった。セーフモード、レジストリ、Administrator、そして、OS。

既に沼に片足を踏み入れていたとは、そのときはまだ、気づいていなかった。

【プロフィール】
小学生のころに『30日でできる!OS自作入門』という本に出会ってしまったことで低レイヤの沼にはまってしまい、今では逆に人々を引き込んでいる。愛読書はCPUの命令セット仕様書。OSの自作を趣味として現在に至るまで細々と続けている。2020年よりChromeOSの開発に従事している。
X:@hikalium

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藤倉成太が紹介『Enterprise Integration Patterns』

ソフトウェアエンジニアとしての仕事を始めて数年経った頃にこの本に出会いました。当時は拙いながらも自分なりの設計のパターンを持っているつもりでした。しかし、この本には自分の考えていたもの以上のあらゆるパターンが整理されていて、大きな衝撃を受けました。以来この本は私のバイブルとなっています。

ある時、ひょんなことから著者の一人であるGregor Hohpe氏と出会い、「あなたの著書が今でも私のバイブルです」と伝えたことを機に親交を深めるようになりました。今ではお互いに連絡を取り合い、アーキテクチャに関しての議論を交わしたり、彼の新著のレビューに加わったりして、ソフトウェア設計者としての多くの学びを得ています。

この本との出会いがGregor氏と私をつなぎ、まさに私のキャリアを変えるきっかけとなりました。

【プロフィール】
株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社に入社し、2019年執行役員CTOに就任。Sansan Global Development Center, Inc.のDirector/CTOとして海外開発体制を強化した。2024年キャディ株式会社に入社し、Drawer VP of Engineeringに就任。
X:sigemoto

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向平琴未(ことみん)が紹介『あたりまえを疑え。 自己実現できる働き方のヒント』

 

 

私のキャリアを変えた本は、澤円さんの『あたりまえを疑え。 自己実現できる働き方のヒント』です。

学生時代の就職活動中、ある技術カンファレンスで澤円さんの講演を聴いたことがきっかけで、この本に出会いました。当時、就職活動を進める中で「将来どうなりたいか」「どんな大人になりたいか」という問いを、この本を読んで言語化できました。本を読むことが苦手だった私でも、非常に読みやすくてあっという間に読み終わったことを覚えています。

特に記憶に残っているのは、自分の得意なことを3つ組み合わせることで、キャリアを「点」ではなく「面」で考えるというアプローチです。就活は自分をアピールする場でもあるので、これまでの経験から自分の強みを3つ以上掛け合わせて表現できるようになりました。また、将来なりたいエンジニア像も、これを意識して「どうありたいか」を考えられました。

この考え方は私の中に深く根付いており、周りにすごいと思える人が多くいても、私自身のユニークさをしっかりと持つことを常に大切にしようと心掛けています。

就職してからも定期的にこの本を読み返していて、大好きな本です。

【プロフィール】
高専卒業後、2021年に株式会社ウィルゲートに新卒入社。PHPやReactでプロダクト開発を行った後、現在はSREをやっている。社外では、PHPを中心として技術コミュニティに積極的に参加し、カンファレンス登壇や運営を行っている。
GitHub:kotomi1338 X:kotomin_m

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編集:中薗昴