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ハリウッドザコシショウのギャグが組織を活かす。タイミーVPoE・赤澤さんが「ええやん」で生みだす「賞賛」「肯定」「鼓舞」「歓迎」のカルチャー

今年の7月に東証グロース市場での上場を果たしたスキマバイトのタイミー。今年の2月にVPoEに就任したのが赤澤剛さんです。関西出身でお笑い好きな赤澤さんは、お笑い芸人・ハリウッドザコシショウのギャグ「ええやん」を口癖として、職場でも多用しています。さまざまな場面で活用できる「ええやん」に込めた思い(!)、そしてその背景にある仕事観についてお伺いしてみました。

もともとお笑いが好きで、深夜番組を録画してまで観ていた

――赤澤さんは、もともとお笑いが好きだったんでしょうか?

赤澤:兵庫出身で、幼少期からお笑い好きでした。小中校生の頃は、深夜のネタ番組をビデオテープに録画し、友だちと貸し借りしてよく観ていました。年末の『オールザッツ漫才』も好きでしたね。5時間の長い番組で、観客の後ろに出演されているお笑い芸人の皆さんがいるため、玄人の笑い声が入るわけです。今面白い最新の笑いを教えてもらっている、という気持ちで観ていました。大阪の劇場「baseよしもと」のお笑いライブにもよく行ってました。新しい笑いを真っ先に取り入れたい、という感覚だったんでしょうね。

小学生の頃はジャリズムさんが好きで、ライブに行っていた当時は野生爆弾さんやケンドーコバヤシさん、バッファロー吾郎さんなどの時代です。今好きなのは、金属バットさんとか。お笑い関係のTシャツはたくさん持っていて、登壇のときなどに着ています。

――「お笑い好き」がアイデンティのようになっているのですね。登壇などでも、よくユーモアを交えていますよね。

赤澤:今はよくしゃべる方ですが、最初からそうだったわけではありません。もともとは「僕だけが知ってる面白いもの」が好きなタイプでした。それはお笑いに限らず、15年ほど前にゲームのオープニングを作っているころから新海誠さんが好きだったり、進撃の巨人の主題歌を担当したLinked Horizonが手売りしていたCDを大事に持っていたり……。生来はほとんど話さない一人っ子なんですよ。

そんな僕がしゃべるようになったのは、小学校の頃に家でも学校でもあまり話さず、「うわ、くちびるパリパリや。誰ともしゃべってへんからや」と気がついたから。「外でしゃべらんとあかん」と思い、中高あたりから急に話すようになったんです。

社会人になってからは、面接や面談、イベントなど、相手に時間をいただいて話す機会が増えました。その時間を、参加された方が「楽しかった」「無駄な時間じゃなかった」と思うものにしたいんです。だから、ユーモアも交えて話すようにしています。

ネタ集めは、日々少しずつ。CTOやCPOと毎日朝会をしていて、最初の数分でちょっとしたことを話すアイスブレイクの時間があります。共感を得られそうな話や、面白い漫画の紹介など。毎回「絶対笑わせよう」と考えているわけではないですが、日々ネタにないりそうなトピックを少しずつためていく、という習慣になっています。

一押しワード「ええやん」が組織を活性化させる理由

――ここから「ええやん」の話に入っていきたいと思います。お笑い芸人の中でも、ハリウッドザコシショウは特に好きなのでしょうか?

赤澤:特に好きですね。ザコシ(ハリウッドザコシショウの通称)さんはR-1で優勝して知名度が上がりましたが、ピン芸人になる前のG★MENSも好きでした。特に注目し始めたのは深夜のネタ番組「あらびき団」ですね。

彼のネタで、原形がわからないほど大げさにした「誇張ものまね」があります。元ネタを知らなくても面白いのですが、知っているとさらに楽しい。「知る人ぞ知る」人をものまねすることもあり、好きなプロレスラーだったりするとすごく面白いんですよね。

一方、実はすごくまじめな一面も。自分が好きなお笑いで食えるようになったのに、事故を起こして手放したくない、という理由で、車を運転しないそうです。また、お客さんからの見られ方はもちろん気にしていると思いますが、芸人として自分がやりたいことをしっかり通している。その二つを両立されているのがすごいと思っています。

――赤澤さんは、「ええやん」というギャグをどんな風に捉えていますか。

赤澤:今はザコシさんのギャグですが、もともとは松本リンスさんという芸人さんの口癖を誇張したものだそうです。「ええやんええやん」と「あかんやんあかんやん」をよく言うらしい。

ザコシさんを見ていると、つかみで自分を鼓舞するための「ええやんええやん」や、失敗した芸に対しての「ええやんええやん」が、「賞賛」「肯定」「鼓舞」「歓迎」などの意味を含むように感じます。硬い言葉じゃなく、柔らかくて使い心地が良くて、言い方によってバリエーションも作れるんですよね。

「ええやん」はタイミーに入る前の会社から使っていて、きっかけはコロナ禍です。コミュニケーションが一気に非同期非対面になり、リアクションやアイコンタクトが見えなくなった。当時僕は、CTOだけでなくCGO(チーフ「ガヤ」オフィサー)も担当していたので(笑)、Slackでスタンプを押し、チャットで盛り上げるといった「ガヤ」を率先して実行していた。そこで好きなお笑いと結びついてハマったのが「ええやん」だったんです。

コミュニケーションは、オフィスとオンラインのどちらかがあればいい、というものではないですよね。「家でやるゲームと、オフ会でやるゲーム、どっちが楽しい?」という問いはナンセンス。どちらも大事にしつつ、オンラインをオフラインの温度に近づけていくようにしていました。その中で、ガヤはわかりやすく有効でした。

――今の組織では、どのように「ええやん」を活用しているのでしょうか? エピソードなどあれば教えて下さい。

赤澤:タイミーでは「『ええやん』によってアクションがしやすくなった」と言うメンバーがいました。ちょっとした改善をした時など「ありがとう」とわざわざ言うのは照れくさくても「ええやん」は言いやすい。ポジティブなフィードバックがたくさん生まれると思います。

賞賛すべき対象のことを「ええやん案件」という人もいます。僕のことを遠くから「ええやんや!」と名前代わりに呼ぶ人もいたり。転職して半年くらい経ったときに言われましたが、そんな風にシンボリックな表現で認識してもらえることはありがたいですね。

一方で、「ええやん」だけで済ませてはいけないケースもあります。ザコシさん自身、「ええやん、と言いながら『ええわけないやん』と思った」こともあるらしく、「あかんもんはあかん」ケースはもちろんあります。手放しに何でもOKにするのではなく、良くないものはしっかり良くしていく必要がある。それでも、「ええやん」と言ってから「ええわけないやん」と言えばいいんじゃないかな。

例えば、「10」のうち「6」ができていて、「4」ができていなかったら、つい、マイナスの4の部分に目が行きます。でも、6もできているから「ええやん」と伝える。でも、「それだけで終われへんやん」と改善していきたい。だからこそ、「ええやん」の方から入りたいと、自分にも言い聞かせています。

ことばの抽象度が高いので、過剰に使いすぎるといい意味も薄れてしまうように思います。僕にとっての「ええやん」は、それなりに重い意図がある。「賞賛」「肯定」「鼓舞」「歓迎」の意味を込めていて、「そこから入ろう」と社内でも伝えています。もちろん、僕が作った言葉ではないので自由に使ってもらっていいのですが、僕自身は意識して使っている。全部が全部「ええやん」ではなく、あくまでも、「ええやん」から入ろう、と考えているわけです。

意図を持った「ええやん」でエンジニア組織を変えていきたい

――タイミーのエンジニア組織には、今どのような課題があり、どう変えていこうとお考えですか?

赤澤:アーキテクチャと組織の両面で一番難しいのは、「タイミーでは、あらゆる要素がある程度うまく行っている」という側面なんです。一定の成功があるがゆえに、そこに手を入れるのが難しい。でも、現時点で成功に見える部分を崩して、3年後の大きな成功を取りに行くフェーズだと思っています。

短期的には非合理性が目立つとわかっていても、それを選択し、歓迎する組織にして行きたい。そこにも「ええやん」という精神が生きると思っています。

加えて、今は組織が大きくなっており、役割やチームのコラボレーションがサイロ化して疎になる部分もあります。例えば、チーム毎の領域だったり、もしくはサーバーサイド、フロントエンド、iOSエンジニア、といった専門性が細分化していく。でも、お客様に対しては、タイミーというプロダクトで価値提供する必要があるので、組織の中で越境性や横断性を持つべく「プロダクトエンジニア」というワードを使っています。少なくともプロダクト開発のチームに対しては、プロダクトエンジニアリングを歓迎する、と表現しています。

僕のVPoEという立場は、CTOの相方だと思っています。CTOと一緒に、技術も見るし、組織も見る。開発という分野で「実現できたら楽しい」を何でもやります。入社したときの僕のミッションは、「タイミーのエンジニアがどこの会社からも引っ張りだこなエンジニアになってほしい。それでも、タイミーが気に入っているという状態を作る」でした。タイミーでいくら活躍できるとしても、個人のバリューに繋がらないことはしません。タイミーでの生活と、個人のキャリアや成長がしっかり沿うようにしていきます。

過去の会社では、「この会社で活躍できても市場では求められないことを会社が悪意なく任せ続けている」というケースを感じたことがあり、自分自身が携わる組織ではそうならないよう常に意識し続けています。人を採用して、人生の時間を預けてもらうことは、それほどの責任があると思っています。

タイミーに入ってから「ええやん」と思うケースがとても多い。素晴らしいメンバーとチームで、素晴らしい成果を上げています。「ええやん」という頻度がどんどん増えているし、素直に言えている状況はとてもうれしいですね。

これからも、誰もやったことのないことにチャレンジしたり、億劫なことに取り組んだりするときに「ええやん」と言っていきたいです。でも、思考停止で100%をOKにするワードではない。自分達に厳しく「何でもかんでもええわけない」という意味も含めつつ、しっかり狙って挑戦していきます。

取材・執筆:栃尾江美
撮影:芝山健太