みなさんはアウトプットをしていますか?
エンジニアにとって技術発信などのアウトプットを行うことは、成長していくために欠かせない活動のうちの一つです。しかし、「なかなか継続できない」「何を発信していいのかわからない」とハードルを感じている方が多いのも事実でしょう。
フロントエンド領域で積極的に技術発信をしている鹿野 壮(@tonkotsuboy_com)さんも、実は最初はアウトプットが苦手だったといいます。
鹿野さんは、 池田 泰延氏(clockmaker)率いる株式会社ICSでフロントエンドのリードエンジニアとして経験を積み、2021年に株式会社マネーフォワードに入社。現在はフロントエンドチームのリーダーを務めながら、会計開発部の副部長としても活躍中のエンジニアです。
今回は、鹿野さんが記事執筆や登壇などのアウトプット活動を続けている理由についてインタビューを実施しました。鹿野さんが語る、エンジニアがアウトプットを続けることで成長するための秘訣とは?
- 仕事だからしょうがなく始めたアウトプット活動
- 実はマサカリは今でも怖い、だから推敲が大事
- 成果物で勝負したい ── 尖っていた駆け出しエンジニアの頃
- ユーザーの反応が嬉しくて作ることの喜びに目覚めた
- 「つらいのにやめられない」ハマる登壇の中毒性
- まだまだ成長したい ── 新しい環境での挑戦
仕事だからしょうがなく始めたアウトプット活動
――CSSやフロントエンド関連でとても積極的に登壇・発信されている鹿野さんですが、先日とあるツイートが話題になりました。アウトプットに力を入れるようになったきっかけを教えてください。
あのツイート、いろんなところで見られてたんですね(笑)。
勉強会での登壇について、いつも感じている正直な気持ちを書きました。 pic.twitter.com/Ip5Mvuve0h
— 鹿野 壮 Kano Takeshi (@tonkotsuboy_com) October 24, 2022
前職で、技術記事や勉強会などで有名だったclockmakerさんの会社にいたのですが、その会社がアウトプットを強く推奨していたんです。自社メディアの執筆も業務のひとつでした。
それまでにも社内に技術を広めるために自主的に勉強会をやったことはありましたが、アウトプットすることの重要性などについてはまったく考えていなかったんですよね。
clockmakerさんの会社には、Flash業界で有名だった人たちが集まっていました。業界のトップクリエイターたちから多くを学べるだろう思って入社したものの、自分がアウトプットをするのは嫌だったんですよ。他の仕事もあるし、自分なんかに書けることはないからと思っていました。でも仕事だからしょうがなく始めたという感じですね。だって怖いじゃないですか(笑)。
――「怖い」とは、SNSなどの反応に対して?
怖いですね。今もですが、間違ったことを発信して何か言われたらどうしようみたいな、そういうのがありましたね。
結構強い言葉で「マサカリ」を飛ばしてる人もいるので。そういう人たちに捕まったらいやだなと思いながら生きていました。
――鹿野さんの発信はブログが最初でしたが、ネタはどうやって考えたのですか?
最初のネタはSassと数学関数を使ってパーティクル表現を作るようなものでした。やはり作るのがそもそも好きだったので、作って面白いことにしようかなと。
当時、このSassという技術を業務で使っていたということもあって、これを使ったら何か面白いことができないかなと思いついたんです。インタラクションやメディアアートをWebでやって、それを技術基準にできないかな、と。それをどうやったのかということを、技術基準として解決するといいかなと思ってネタにしました。
実はマサカリは今でも怖い、だから推敲が大事
――鹿野さんも最初はアウトプットするのが怖かったんですね。それでも継続できたのにはどんな理由があるのでしょうか?
アウトプットするときって、一生懸命考えるんです。この内容でわかりやすいのかな、難しすぎないかな、簡単すぎないかな、間違ったことを言ってないかな、とか。テキストの細かい部分や挿入するキャプチャーも考えまくって。
どれもかなり苦労して書く記事なので、そういう記事を読んだ方から「わかりやすかったです」「参考になった」と言われるのは本当に嬉しいんです。また、勉強会などで「鹿野さんのこの記事を読んで技術を導入しました」「会社に広めました」と声をかけられたりするのも、本当に嬉しかったからですね。
――一生懸命考えるとは、具体的にはどうしているのですか?
私、Twitterをメモ帳代わりに使っていて、気になった技術とかは結構つぶやくんです。ただつぶやくんじゃなくて、できるだけ自分の言葉でまとめるようにしてつぶやいているんです。そうすることで、キャッチした技術をその瞬間とりあえず自分のものにしておけるんですよ。
あとはTwitter以外にもNotionにネタを集めていって、その中から何か一つピックアップして、技術記事を書くという感じです。
書くときはとりあえず雑に書いていって、何回も何回も行ったり来たりしてブラッシュアップしていくことが多いですね。いち読者になったつもりで上から下まで読み返して、ここはわかりづらいな、ここにキャプチャーがあった方がいいな、ここのコードはこうした方がいいな、というのを泥臭く何回も何回も繰り返しています。
どうせ出すからには、納得いくまで作り込んで出したいと思うからですね。
――最初に読者想定をして、こういう人に読んでもらいたいと届けたい内容を決めた上で書いているのですか?
最初から読者層を設定しています。セミナーでもそうなのですが、どういうターゲットが来るのかをまず確認します。Webを始めたばかりの人なのか、少しは学んでいる人なのか、それともバリバリやっている人なのかを調べます。
記事に書くときも、今回はこういうターゲットにしようというのがあって、ターゲットありきでアウトプットの内容を決めていくようにしています。やりながら書いていく、書きながら考えていくほうが私には向いているので。
2017年 「CSS Nite LP54 Coder's High 2017」
――「マサカリ」が怖いという話がありましたが、どうやって慣れていったのですか?
そもそも怖いことを言う人がいるのは知っていたのですが、「マサカリ」とか「エアリプ」とかそういった文化自体をあまり知らなかったんです。
以前、登壇した際にスライド資料だけを公開したことがありました。スライド資料には説明が足りない部分があったのですが、それは口頭で補足するつもりで。しかし、そのスライドだけを見た人から「これ間違ってるよ」みたいなことを言われたんです。めちゃくちゃショックで、当時はまだメンタルが弱く、もう本当に悲しい気持ちになったんです。
それからは、勉強会でしか使わないスライドであったとしても、スライド単体だけでツッコミがないように作り込むよう気をつけています。あとは「マサカリ」はもう慣れることはないので、ツッコミが来ないように理論武装するしかない。どう対策するかという話です。
それこそ記事執筆の話につながっていくのですが、この記事にはツッコミどころはないかな?というのを意地悪な読者になった視点で読んでいって、ツッコミがないように作り込んでいきます。
――「マサカリ」に慣れた、気にしなくなった、というわけではないんですね。
全然ないですね。これ間違ってるって言われるんじゃないかと、自分の記事を書いたらエゴサするのが今でも怖いです。
つい先日もTypeScriptの記事を書いたんですけど、TypeScript界隈には優秀な人がいっぱいいるので、そういう人たちから間違いをツッコまれていないか?と探すのは怖かったですね。もしかしたら何か言われてるかもしれないですが。慣れないですね、「マサカリ」は本当に。
――だからこそ推敲であったり準備フェーズで対策されているということですね。
「マサカリ」は純粋な指摘であり、それに関してはもちろん自分が間違ってるところなので、快く受け止めて直せばよいだけのありがたいものです。
一方で、単なる悪意だけのコメントも無いわけではありません。しかし、それはもうどうしようもないものだと考えて、自分の目に入らないようにしていますね。
成果物で勝負したい ── 尖っていた駆け出しエンジニアの頃
――大学でメディアアートを学んでいたことから、面白いものを作りたいと思っていたそうですね。エンジニアとしてのキャリアはどのようにスタートしましたか?
最初はWeb制作会社にエンジニアとして入社しました。本当にチームの一番下っ端からのスタートです。
会社の方針で、入社してしばらくは営業を担当していましたけど。
――最初はコーダーとしてどのような案件を担当していたのですか?
制作会社で広告系のWebページをひたすら短納期で作り続けていました。3日間帰れませんとか…今だとありえない働き方をしていましたね。
私はFlashという技術が好きなのですが、そのFlash全盛期が終わりに差し掛かってスマートフォンが台頭してきた頃でした。そのスマートフォン対応が当時のWebの流行りだったので、そういった業務を担当していました。
あとは広告ということで、派手めな動きが求められることが多く、ド派手な演出をするようなWebページを作ることも多かったですね。
当時は1週間などの短納期案件が多く、会社に泊まり込みもよくやっていました。
――短納期で大変なことも多かったと思いますが、そこで鍛えられた部分もあるのでしょうか?
そうですね。あの頃が今の自分の土台になっていると思います。時間内に仕上げることや、ユーザーの体験が気持ちの良いものになっているかといったUIUXの意識も身につきました。
当時20代前半だった私は、若くて駆け出しだったということもあって、なめられたくないという思いが強かったんです。若いから仕事ができないと思われるのがすごく悔しくて、自分の年齢を言いませんでした。成果物で勝負しようという姿勢ができたのはその頃でしたね。
――成果物に対するクオリティの意識が高かったんですね。メディアアートを学ばれたことも影響しているのでしょうか?
そうかもしれません。うだうだ言う前にその作品で魅せる、そういった必殺仕事人みたいな姿勢がとてもかっこいいなと思っています。
成果物で勝負するのがエンジニアなりクリエイターとしての本当の姿だという考えを価値観として持っていたので、自分の仕事ではその成果物をしっかり時間内に完成させることを意識してやっていました。
その弊害でどうしてもできないことがあった場合にも「本当に間に合いません」「技術的にできません」という報告ができなくて。ギリギリのタイミングで上司に伝えることになり、めちゃくちゃ怒られました。優秀な先輩がため息をつきながら私の尻拭いをしてくれて…本当に申し訳ないと思いました。
ユーザーの反応が嬉しくて作ることの喜びに目覚めた
――そもそも何かを作ることが好きだったのでしょうか?
はい。作ることが好きでエンジニアになったみたいなところがあって、プログラムを書くことについてはあんまり仕事をしているという感覚はないです。遊びとか自分の趣味をずっとやっているみたいな感覚がありました。
その思いがメディアアートを学んでより強くなりました。また、制作会社で納期に追われていた時代にも作ることの楽しさを知りました。作って、社内のメンバーに「めっちゃいいじゃん」と言われることや、お客さんが「このサイトめっちゃ面白い」と言ってくれるのが嬉しくて、もっと作ろう!というような楽しさですね。
――特に嬉しかったことや記憶に残っているエピソードはありますか?
ゲームのアプリをよく作っていたのですが、新しい機能を作ったらSNSで面白いと言われたり、作ったゲームのCMが流れたり、著名人がプレイしてくれたり、あとGoogleのベストゲームに選ばれたり、そういった出来事はやっぱり嬉しかったですね。
あとは「このステージ難しい」「俺はここまでクリアしたぞ」とユーザーが遊んだ反応を見るのも本当に楽しかったです。
「つらいのにやめられない」ハマる登壇の中毒性
――最初のツイートの話に戻りますが、つらくて逃げ出したいと思いながらもアウトプットを続けようという原動力はどこからくるのですか?
アウトプットは、もはや趣味といえます。趣味というか仕事の息抜きですね。アウトプットすると、自分が一番得するんですよ。もちろん読者の参考になるアウトプットを心がけていますが、技術記事を書くこともセミナーで発表することも、発信した自分が一番その内容を理解できるものなんです。その技術記事や登壇で話した内容が本当に自分のものになるので、それがすごく良いんです。
私は常々、いかに自分の仕事を楽にするかについて考えています。この新しい技術を使ったら自分の日々の業務が1分削減できます、この新しいツールを使ったら今までよく起こっていたバグが今後なくなります、といったことをです。
そういう喜びを感じることで、もっとアウトプットしようという循環につながっていく感じですかね。
2017年「 ヒカ☆ラボ 」
――「何かいいものを作ったり、ためになる楽になるものを作ること」とアウトプットがイコールになっている感じですね。
そうですね。準備から登壇を終えるまでは苦しいですけど、終わった後は喜びがあり、それを知っているから頑張れるって感じですね。中毒(笑)。
アウトプットをしていると、個人宛に登壇してください、書籍を書いてください、といった依頼が来るようになります。そういうところで自分のアウトプットが役に立っているんだな、それならもっとアウトプットをしよう!と思い始めたというわけです。
登壇や執筆の依頼は二つ返事で受けるようにしています。いつも1週間前になって「なんで私は依頼を受けたんだ」「受けなきゃよかった」「逃げたい」と思って、例のサイクルに入っていくって感じですね。
登壇前日に、もう会場がなくならないかな…雪で中止になりましたとか言ってくれないかな…とか、本当に思っていますからね。セミナーの規模感問わずです。もう、よく生きてるなと。
――それでよくまた登壇しようと思いますよね、本当に。中毒ですね(笑)。
2020年「CSS Nite LP67 All About XD」
まだまだ成長したい ── 新しい環境での挑戦
――現在はフロントエンドエンジニアのチームリーダーということですが、副部長というポジションも兼任されているのでしょうか?
そうですね。フロントエンドチームがあり、その上に開発部というのがありまして。その開発部でサーバーサイドエンジニアやQAエンジニアなども抱えており、そこの副部長を兼務しています。
――マネジメントも行うポジションだと思いますが、ご自分でもコードを書きたくてプロジェクトでヘルプに入っているそうですね。どれくらい手を動かしていますか?
マネジメント業務とコードを書くことの割合は、大体50:50ぐらいですね。両立は難しいですが、コードを書く時間はそれなりに確保するようにしています。
プロジェクトの中でタスクとして入っているケースもあります。直近では案件の開発が遅れていたため、「はい。私が入ります」と自分で自分をアサインすることもありました。プロジェクトを達成させるというゴールに向けて動く感じですね。
――これまでエンジニアとしてやってきて、大きな選択、分岐点だと感じることはありましたか?
私、clockmakerさんの会社に7年ぐらい勤めていたんです。そこを辞めるのは大きな選択でした。今もそうですけどclockmakerさんを尊敬しているし、会社も非常に居心地がよかったので。そこからマネーフォワードに転職するのは自分の中でも大きな転換点でした。
環境も含めてまったく違うんです。以前は7人ぐらいの超少数精鋭で、全員エンジニアみたいな会社でした。マネーフォワードは入社当時でも1,000人強の大所帯で知らない人ばかり。本当に世界が変わるような感じでしたね。
――それはワクワクが大きかったのか、不安が大きかったのか、どういった感情があったのですか?
やはり不安が多かったですね。こんな大きな会社で自分はやっていけるのか?と思っていましたし、それは今も思っています。
――転職を決意した理由は?
転職をしようと思ったのは、もっと成長したかったからです。7年同じ会社にいて、段々と自分の成長が鈍化している感覚が出てきて。環境を変えたいなって思ったのが理由ですね。
社員が多いことのメリットは、さまざまな立場の人の意見を聞けることです。いろいろな人間、いろいろな感情を持っている人たちがいるので、人間的なコミュニケーションの場面では多様な考え方に触れることができます。また技術的な場面では、さまざまなレイヤーの多岐にわたる技術を持っている人たちの意見を聞くことができるのが非常に大きいですね。自分一人では到達し得ないような知識や情報を得られています。
――ありがとうございます。最後にこれからアウトプットをやろうと考えている人、まさに今アウトプットに力を入れている方に向けて、一言メッセージをお願いします。
読者や視聴者のことを一生懸命考えてみてください。これは本当にわかりやすいのか?と一生懸命考えて、アウトプットしましょう。そうすれば、技術記事であればその言葉が拙くても、セミナーであれば喋り方が下手でも、必ず面白いものになります。
勇気を持って、「マサカリ」を恐れずに頑張ってほしいです。アウトプットは楽しいので、ぜひ一度やってみていただければと思います。
マネーフォワード「書き初め会」2023で書いた新年の抱負

鹿野 壮(かの・たけし)
2021年にマネーフォワードに入社。経理財務プロダクト本部 会計開発部 副部長。九州大学でメディアアートを学んだ後、ウェブ制作会社にてウェブページ制作やモバイルアプリ開発に携わり、現在はフロントエンドチームのリーダーを務めている。近著に『JavaScript コードレシピ集』(技術評論社)があり、最新のフロントエンド技術を駆使したコンテンツづくりが得意。