西本卓也さん──人命を左右するアクセシビリティの分野で、自分の役割を果たしたい

コンピュータの画面に表示されている情報を合成音声で読み上げるスクリーンリーダー。視覚障害者がコンピュータを操作するために欠かせないソフトウェアだ。西本卓也さんは、オープンソースのスクリーンリーダー「NVDA」の日本語対応を最初に始め、10年以上に渡って開発をリードしてきた。

アクセシビリティに関わるきっかけは、視覚障害のある方がパソコンを練習する教室と接点ができ、その流れで、視覚障害者のためのタイピング練習ソフトウェアの開発に携わったこと。

プロダクトを作って、視覚障害のある方に使ってもらうというのは、私の中ではとても貴重な経験でした。そういう方々のお役に立てたのが嬉しかった

その後、スクリーンリーダーを取り巻く状況が、世界と日本とで大きく異なることを知り、自ら手を動かすことになる。

オープンソースのスクリーンリーダーに、日本語の読み上げを組み込んでみようとして、いろいろ頑張ってみたら、ある程度うまく動くようになったんです

元々、オープンソースの音声合成エンジン、音声UIのプロジェクトに関わっており、ある程度の知見があったことも幸いした。
これが2010年秋のこと。当時、大学教員として博士論文を書く日々を送っていたが、同時に、行き詰まりも感じていたという。

僕がやりたいことって、助教授になることじゃなくて、プロダクト(を作ること)をちゃんとやることだよなぁと考えるようになっていて。いずれ大学を辞めようというところまでは決心していた

背中を押した最後の一押しは、2011年3月の東日本大震災だった。

情報が人の命を左右することを、いっぱい目の当たりにしたんです

そこで、本当にアクセシビリティで人の命が左右されるんじゃないか、みたいなことを感じてしまったんです。やっぱりここで真面目にやらないと後悔する、という気持ちになった

その決断から10年以上も続けてこられた理由は?

やっぱり、いろいろな人に出会って助けてもらったり、あるいは、この人に喜んでもらわなきゃと思ったりしたからです

(現在、主査を務めている)Webアクセシビリティ基盤委員会の活動もそうですが、ある意味、日本のWebアクセシビリティがどうであるかを決める大事なソフトウェアなので、そういう責任を果たさなきゃという思いもあります

僕がこれを怠けるとみんなに迷惑をかけるだろう、だから迷惑をかけないで自分の役割を果たしたいという気持ちもあります

そんな西本さんが、今後やろうとしていることを聞いてみた。

多くの人にスクリーンリーダーを使ってもらい、職場で仕事ができる状態をお手伝いしたい

そのためには、スクリーンリーダーのことだけお手伝いしてても駄目だろうということで、ここ何年かで情報セキュリティの資格を取ったりしています

 

取材・執筆・文責:Ko Kazaana
写真:西本さん提供
編集・制作:Findy Engineer Lab編集部