「HackforPlay」をご存知だろうか。初心者でも楽しく学べるプログラミング学習プラットフォームであり、子どもから大人まで熱狂的なファンも多いWebサービスだ。石川県在住のソフトウェアエンジニア/起業家の寺本 大輝さんが2014年に開発した。
開発当時、寺本さんはまだ石川県内の高専に通う学生だった。「HackforPlay」開発のきっかけとなったのは、大学生がプログラミングを教えてくれる研修プログラムへの参加。素晴らしい体験だったと思う一方、プログラミング教育に地域格差を感じ、もどかしい気持ちになったという。
「プログラミングを教えてくれる大学生のいない地域、例えば大学のない能登半島では、このプログラミング教育のモデルは成立しません」
「どんな僻地に住んでいても、教えてくれる大学生がいなくても、プログラミングの面白さに気づけるサービスを作りたい。そう思い立って、プロトタイプを3日ほどで完成させました」
公開後の反響は予想以上。有名なプログラマーやブロガーがプレイして記事を書いてくれたことで、「HackforPlay」はどんどん拡散されていった。
「HackforPlay」の特徴は、単なる技術習得ではなく、学習のモチベーションの課題を解決している点にある。ゲーム開発は魅力的な学習テーマである一方、難易度が高く挫折しやすい。そこで、すでに完成しているゲームのプログラムを少し改造できるように設計した。これならコードを読むきっかけも生まれ、プログラミング能力の低い初心者でも挫折することなく楽しめる。
「最初から分厚い本を1冊渡されて、1ページ目から難しいと心が折れてしまう。ゲームを作るハードルを下げることと、完成したゲームのコードを読むきっかけを作ることの両方が重要だと思ったんです」
「HackforPlayに人生の時間を使いたい」と、在学中に起業してから10年。すべての人がプログラミングを楽しめる世界をつくるために、学習プラットフォームの開発以外にも、子ども向けワークショップ「CoderDojo Kanazawa」を開催してきた。
「小学校の頃に私がプログラミングを教えた子どもたちが、高校生や大学生になって情報系の進路を選び、プログラミングを熱心に学んでいる。おこがましい言い方かもしれませんが、彼らの人生を変えられたような気がして、とてもうれしいんです」
ビジネス上の課題を解決したときの達成感とはまた別の、誰かの人生に影響を与えられる喜び。子どもたちがプログラミングの道を選び成長していく姿を見られることが、活動継続のモチベーションにもなっている。
現在、株式会社HelpfeelでWeb開発やチームマネジメントに従事しながら「HackforPlay」の運営を続けている寺本さんに、人生の目標について聞いた。
「自分より強いプログラマーと出会って、その人が『HackforPlayがきっかけでプログラミングを好きになりました』って言ってくれること。それが叶えば、もう死んでもいいくらいです」
寺本さんの情熱と創造性は、プログラミング教育の未来を切り開き、次世代を担う子どもたちの可能性を広げてくれるに違いない。
寺本 大輝
ゲームをハックしてプログラミングを学ぶ教材「HackforPlay」を石川工業高等専門学校在学中に開発し、起業。NICT起業家甲子園で総務大臣賞受賞、2015年度IPA未踏スーパークリエータ認定。自社サービス運営の傍らCoderDojo Kanazawaを立ち上げる。2021年から、株式会社HelpfeelにてWeb開発やチームマネジメントに従事しながら、「HackforPlay」の運営・開発を行う二足のわらじで活動している。