スクラムマスター往復書簡 第9回:組織の中で変革に挑むアジャイルコーチのリアル

記事AI要約

本稿は、スクラムマスターの天野氏とアジャイルコーチの森氏が、「組織の中で変革に挑むアジャイルコーチのリアル」をテーマに対談した記録です。天野氏は、目の前のチーム改善から始める「現場課題解決志向」のアプローチで、結果として組織変革が“副産物”として起きたと語ります。一方、森氏は顧客企業を対象に、経営層にアプローチするトップダウンと現場のボトムアップを組み合わせる「戦略的アプローチ」を実践しています。

両者はアプローチこそ異なるものの、変革の過程でステークホルダーの反対など「泥臭く、ドロドロした部分」に直面した経験を共有。その中で、「べき論」による説得は失敗し、相手の立場や評価基準を深く理解し、誠実に対話することの重要性を強調します。結論として、組織変革の鍵は「政治とカネ」の問題から逃げず、最終的には「人と人との関係性を丁寧に築く」ことにあるという共通認識が示されました。

From: 天野

みなさん、こんにちは。スクラムマスターの天野です。今回のスクラムマスター往復書簡は、書籍『ふりかえりガイドブック』の著者であり、アジャイルコーチ・ふりかえりエバンジェリストとして活動されている森一樹さんとの対談をお届けします。 今回のテーマは、「組織の中で変革に挑むアジャイルコーチのリアル」です。

森さんといえば「ふりかえり」の第一人者として有名ですが、今回はあえてふりかえり「以外」の話をしたいとお願いしました(笑)。というのも、森さんはこれまでのキャリアを通じて様々な組織で多彩な経験を積まれており、ふりかえりの枠を超えた幅広い視点からお話しいただけると思ったからです。

私たち2人に共通するのは、異なるタイプの組織の中で、それぞれ異なる立場から組織に働きかけ続けてきたことです。そして、アジャイルを実践し浸透させようと努力する過程で、必ず直面するのが「組織変革」や「チェンジマネジメント」という大きな壁です。

組織を変えるのは、とても大きく漠然とした問題であり、まるで雲を掴むように手応えがありません。その結果、「とりあえず目の前のチームでスクラムを回そう」「まずはプラクティスを定着させよう」と、局所的な改善活動に終始してしまうケースが多く見られます。

「組織変革」や「チェンジマネジメント」という言葉は頻繁に耳にしますが、実際に何をどう変えるのか、なぜ変える必要があるのか、どのような未来を目指すのかといった根本的な問いに明確な答えを持っている人は意外と少ないように感じます。

今回の対談では、組織変革の「理想論」ではなく「リアル」な知見を共有したいと思います。実際にどのような問題を発見し、どのような理想を見据え、どのような行動を取ってきたのか。そして、うまくいかなかった時にどう乗り越えてきたのか。それぞれの視点から率直に語り合い、組織の中で変革に挑む皆さんにとって、明日からの活動のヒントになるような対話になればと思います。

実際の業務では、ふりかえり「以外」が9割

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みなさんこんにちは!天野さん、ワクワクするようなテーマをありがとうございます。「なぜ私がチェンジマネジメントの話を?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。私の各地での講演は「ふりかえり」が9割、その他が1割といった形なのですが、実際に仕事の中ではふりかえりが1割、その他が9割なんです。その中には組織変革を支える「チェンジマネジメント」も主な業務として行ってきました。今回は、天野さんも普段語っていないような、リアルでドロドロした部分も互いにできると面白いと思っています。

天野さんはスクラムマスターをここ10年近くやられていますよね。スクラムマスターにひも付けて話を広げていきたいのですが、スクラムマスターにも幾つかのレベルが定義されています*1。レベル1が「私のチーム」、レベル2が「関係性」、レベル3が「システム全体」です。今回のチェンジマネジメントや組織変革というテーマでは、レベル2や3の話を扱うことになると思います。天野さんがスクラムマスターとして取り組んできた「組織変革」は、どういうものだったのでしょうか。

From: 天野

スクラムマスターのレベルにひも付けて話すのは、すごく整理しやすいアプローチですね。

私はよく「サイボウズでスクラム導入を推進して組織変革をやり切った人」のように紹介されることがありますが、正直なところ、自分が「組織変革」をしていたという意識はあまりありませんでした。

振り返ると、私がやっていたのは基本的に「目の前のチームやプロダクトを良くするために、やるべきことに取り組む」ということでした。レベル1の「私のチーム」の段階では、「このスプリントでユーザーにどんな価値を届けたいか」をチームで真剣に議論したり、レトロスペクティブでチームが抱える問題について話したりできるようになり、そういった小さな変化の積み重ねに集中していました。

転機となったのは、レベル2の「関係性」に足を踏み入れた頃でした。自分以外の登場人物や、考慮すべき情報が増え、ただチームの中で頑張ればいいというゲームではなくなっていったんです。他チームのマネージャーや、ステークホルダー、経営層との関係性を意識せざるを得なくなりました。

さらに、本部や組織全体をスコープに見据えたレベル3の「システム全体」になると、そもそも自分が直接影響を及ぼせるものがほとんどないことに気づいたんです。そうした世界で、一体自分に何ができるのかを考えるようになりました。

それでも「組織変革をするぞ!」と意気込んでいたわけではありません。むしろ、スクラムマスターとして目指したい理想の在り方に向けて努力する旅の中で、振り返ったら周りの景色が変わっていた、という感覚に近いです。つまり、私にとっての「組織変革」とは、意図的に仕掛けたものというよりも、理想を追求する過程で自然に起こった“副産物”のような体験でした。

森さんは、チェンジマネジメントを意識的に取り組まれているとのことですが、組織変革に対してもう少し戦略的にアプローチされているのでしょうか。それとも、私のように「気づいたら変わっていた」という経験もお持ちですか。

チェンジマネジメントの本質的な目的は「三方よし」

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私の場合は「戦略的にアプローチする」ほうが近いかもしれません。天野さんのお話を聞いていて違いを感じたのは、私の場合は、生業とするチェンジマネジメントの対象が「お客さま」だという点ですね。

一人でお客さまのところに入り込んで組織変革を提案・進言するようなコンサルタントとしての立場、お客さまの管理者層や現場の方々とともに内部から一緒に変革を推進するファシリテーターとしての立場、はたまたSaaSの各種ツールを大規模にお客さまに導入いただき、経営課題の解決を支えるセールスやカスタマーサクセスとしての立場――。いずれの立場であっても、お客さまからは「チェンジエージェント」とは見られていなかった場合も多数ありますが、結局使っているスキルはチェンジマネジメントでした。

お客さまに対してチェンジマネジメントをする目的の根底は、「お客さまと自社、ひいてはそれを通じた日本の3者が共に栄えること」だと私は考えています。

お客さまに大きな収益を上げていただくために、事業構造をどう変えていくか、組織構造をどう変えていくか。お客さまが掲げている数年後に達成したい経営目標や、経営課題を理解し、そこにどう寄り添っていくか。そして「1人でお客さまのもとに入り込んで、やり切ったら終わり」では、自社のビジネスはスケールしません。

そのため、お客さまの中で自社のプレゼンスをどう高めていくか、お客さまと自社との合わせ技でこそ成し遂げられることは何か、といったことを考えながら支援を進めます。そうすると、「2社が協力すれば日本にこういう変革を起こせる」という観点も見えてきます。

変革を進める上で現場層の理解は間違いなく重要なのですが、まずアプローチするのは管理者や役員などのトップレベルが先になります。組織という大きな塊を動かせる意思決定者が誰なのかを知り、トップダウンとボトムアップ双方のアプローチで変革を推進していく、そんな形です。

そのため、スクラムマスターでのレベル2の「関係性」を基本の視座としてお客さまにアクセスし、お客さまと会話をしながらレベル3「システム全体」へと目を向けていく、というやり方を現状は採っています。

……と理想を語ったものの、現実はそんなに簡単に綺麗な形にはならないんですよね。お客さまによって入り方は様々で、泥臭いこともたくさん行います。私の場合、「戦略的に」と先ほどは言ったものの、特定の方法論やフレームワークに基づいて行動をしているわけではありません。お客さま内部の関係者間に働く力場を、お客さまと共に整理しながら、どこに作用点があるのかを探していく、というステークホルダーマネジメントから始め、その後は状況に応じて臨機応変に、というやり方ですね。

その「ステークホルダーマネジメント」や「臨機応変に」の部分に、私が得意としている「ふりかえり(レトロスペクティブもその一部)」が有効に作用します。周囲からは「ふりかえり」をメインコンテンツとして組織を変えている人、のように思われがちですが、実際は他の支援内容のほうが何倍も大きい割合を占めています(笑)。

ここまで天野さんとの相違点を話してきましたが、共通点もあります。お客さまと自分たちの「理想の在り方」を最初に夢想するんです。その延長線上が私にとっての日本の「理想の在り方」であって、日本全体に間違いなく効くのがふりかえりだった。そうして日本を変えようと色々奮闘をしているうちに、世界全体へと良い影響を及ぼし始めているんじゃないかな、と思えるようになってきました。

From: 天野

なるほど、こうしてお話を聞くと、改めて私たちのアプローチの違いが鮮明になりますね。

森さんは「お客さまと自社、そして日本の三方よし」という大局観を持ちつつ、トップダウンとボトムアップを戦略的に組み合わせて変革を推進される。一方の私は、目の前のチームから始め、気づいたら周りの景色が変わっていたという「現場課題解決志向」的なアプローチでした。

森さんのお話を聞いて、ふりかえりは単体のプラクティスではなく、三方よしを目指す組織変革に向けた対話の手段として位置づけられているのだと理解しました。これは、ふりかえりの価値をより深く認識できる捉え方だと思います。

さて、ここからはお互いの「泥臭く、ドロドロした部分」に足を踏み込んでいきたいと思います。私の場合、変革を進める上で現場のやり方を変えるための「ステークホルダーの壁」をいかに超えるかで常に苦労していました。

記憶の限りで最もドロドロしていた自チームへのスクラム導入時は、私が「次のバージョンからスクラムで開発したい」と提案したところ、非常に多くの反対の声がありました。PMからは「仕様が頻繁に変わるのは非効率では?」「会議の時間が増えるのでは?」、QA からは「何回もリリースしたら試験が無駄になるのでは?」「開発工数が減らないか?」「リリースの手順はどう変わるのか?」といった具体的な不安が次々と出てきました。

こうした壁に対して、まずは「チームが一丸となってチームワークを発揮し、ユーザーにより多くの価値を届ける」という理想を共有することから始めました。その上で、『Fearless Change』(丸善出版、2014年)を参考に、ランチ会を開いて各部署のメンバーの具体的な業務内容を聞いたり、懸念される問題点について一緒に考えたり、小さな実験を一緒に試したりといった取り組みを重ねました。

こうした地道なステークホルダーの声に耳を傾ける活動が、組織の中で新たな活動をする上で非常に重要だったと思います。逆にうまくいかなかったのは、「理屈上は良いはずだ」という考えから「説得する」という試み全般でした。

組織として大きく反対する勢力があったわけではないのですが、個人レベルでは新しいやり方をどうしても受け入れるのが難しい方もいました。そのような方に対しては、現場でできる限りの支援を行いながら、別途マネージャーと連携して対応策を模索するといった活動も必要になりました。

森さんはお客さまの組織で戦略的にチェンジマネジメントを進める中で、どのような泥臭く、ドロドロした経験をされてきたのでしょうか?

「べき論」を振りかざしても、現場はついてこない

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ドロドロで箸が立つラーメンのような話になってきましたね。どんどん(読者的にも私的にも)美味しくなっていく話です。

天野さんの「説得する」活動が失敗してきた、というのは、実は私も多くの失敗経験があり、共感できる点でした。例えば、天野さんのように「スクラムを導入しよう」という話をお客さまに持ちかけたことがあり、似たような理由で反対の声が多数上がり、それを半年以上かけて少しずつ解きほぐしていったという経験があります。結果として反対の声は減ったものの、全体として見ると納得していない人もおり、私が抜けた後に、揺り戻しが起こってしまった、という声も聞きました。

当時の私はある種の「アジャイルとスクラムが全てを好転させてくれるはずだ」という妄信と、実際に小さな現場を変えてきたという実体験や自信がありました。ただ、周囲のハレーションや落とすべきステークホルダーまでには目は届かず、あくまで開発をしている人たちの周辺しか見えてなかったんですね。

だからこそ与えられる変化の範囲やスピードには限度があり、「スクラム」という手段にこだわるあまり、無用な衝突も生んでいたように思います。スクラムは、本来ただの手段でしかないのに――です。

「べき論」を振りかざして、トップ層を懐柔してトップダウンで号令を出したとしても、その下にいる人々に納得感がなければ誰もついてきません。

天野さんのいう「地道にステークホルダーの声を拾う」というのは、とても重要だと私も考えています。例えば、私が組織を変革しようとした時に、必ずやることが一つあります。それは、ステークホルダーマップを作ることです。お客さまの組織図を入手して、本部・部・グループなど公開されている情報は全てマッピングし、その中のキーマンを分かる範囲で書き出す。

そして、私に依頼していただいた方と相談しながら、そのステークホルダーマップの中で誰がどのような属性を持っているのかを分かる限り書き出します。例えば、どこに住んでいて、普段どのオフィスにいて、誰と仲がいいのか、どういうことに興味を持ってくれるのか、どのような意思決定をするタイプなのか、といったことがあります。そして、トップダウンであればどのキーマンに協力を取り付ければいいか、そのキーマンに協力してもらうために何を持っていけばいいか――を考えるんです。

ただお土産を持っていくのではなく、彼らが痛みを感じている部分に寄り添い、共感する。また、組織の中で働いている以上、彼らがどういうミッションを持って働いているのか、どのような成果を出せば評価されるのか、という内面にまでダイブします。

トップダウンだけではなくボトムアップも同様です。現場で働く彼らが、どんな意思を持って働いているのか、何を課題に感じているのか、周囲との関係性はどういう状況か。現場の想いを知った上で、マネジメント層の想いと現場層の想いをすり合わせしていきます。

全員の話を聞いてからハレーションが少なくなるよう変革を進めていくのが理想かもしれませんが、現実にはスピード感も求められますし、ビジネスバリューを示さなければ、変革をするための中心メンバーが配置換えされてしまうことも少なくありません。「船頭多くして船山に上る」にならないよう、変革を行う際にも、意思決定はあくまで変革の推進者、もしくは決裁者であることを念頭に置いた上で、全員がWin-Winになれる経路を模索し、最適な意思決定をしていただけるようにサポートする、という仕事の進め方をしていました。

組織変革をするために“出島”を作って、そこから広げていこうとする組織もあります。その出島では通常会社ではすぐに承認が下りないようなことでも、実験的に行える権利を持てるからこそ、人が集まることもあります。でも、結果が出なければそれまで。次に出島を作るための投資をするハードルはグッと上がってしまいます。

変革をただの出島だけで終わらせないためにも、組織の中でのアラインメントをいかに形成し、成果を上手に周囲に示していくか、という部分も注意しながら組織と関わります。

組織に属した上で、人対人のコミュニケーションという意味で、かなり泥臭いことをやっている自覚があります。「きれいごとだけでは仕事は進まない」というのを実体験として持っているからこそ、マネジメント層との本音を通じたコミュニケーションができるんだろうなとも思います。

From: 天野

どれもすごく分かります。特に「きれいごとだけでは仕事は進まない」という部分は、自分自身の経験と重なって身につまされる思いです。

私自身、マネージャーになる前は森さんがおっしゃるような「ドロドロした部分」から意識的に距離を置いてきた自覚があります。スクラムマスターとしてクリーンで技術的に卓越したプラトニックな「理想のチーム像」を追求し、政治とカネのようなドロドロしたところには関わりたくないと思っていたんです。「そんなことは自分の仕事ではない」と。

しかし、現場で理想的なチームを作れたとしても、上層部の意向ひとつで解散させられてしまうこともある。こうした経験を通じて気づいたのは、組織をアジャイルに変えるには、そもそもチームが形成される前の、より上位の意思決定プロセスに影響を与えられるようにならなければいけないということです。つまり、私たちはもっと政治とカネの問題に向き合う必要があると考えています。

森さんがステークホルダーマップを作って「彼らがどういうミッションを持って働いているのか」「どのような成果を出せば評価されるのか」まで調べるというお話を聞き、これこそが組織変革の肝だと思いました。

組織を変えるとは、組織の中にいる人々の行動を変えること。行動を変えるとは、その人の思考を変えることです。そして思考は感情の影響を強く受けますから、人の感情や心の機微を無視しては何も変えられません。

実際、Gerald R. Ferrisらの研究*2では政治力を「仕事において他者を理解し、その知を用いて、個人および組織の目標達成に資するように他者の行動に影響する能力」と定義しています。つまり、政治とカネの問題に向き合うとは、他者理解の努力を真摯に行うということなんですよね。

具体的には、権限のあるメンバー(トップ層)が何を重視し、どんなプレッシャーを抱え、どのような成果を期待されているのかを理解し、その上で彼らの信頼を勝ち取る。そうして組織のルールを変え、予算の使い方を変えることが、組織変革の実体ではないかと考えるようになりました。

私はマネージャーになってからは、以前なら「政治的すぎる」と敬遠していた話題にも積極的に関わり、経営層の判断プロセスを理解しようと努めるようになりました。

森さんのような戦略的なアプローチと、私のような現場からの積み上げ的なアプローチ、どちらも結局は「人と人の関係性を丁寧に築いていく」という共通点があるように思います。きれいごとだけでは仕事は進まないからこそ、より深く、より誠実に人と向き合う必要があるのかもしれませんね。

結局は「人といかに向き合うか」

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「きれいごとだけでは仕事は進まないからこそ、より深く、より誠実に人と向き合う必要がある」――。本当にその通りですね。大変良いまとめ、ありがとうございます。首をブンブン振りながら読んでいました。

これほどふりかえり以外の話で天野さんと会話を広げていけたことが、とても楽しい経験でした。私がどのような想いで組織を変えようとしているのか、どのような行動を取っているのかを改めて言語化できた良い機会であり、天野さんのマネージャーとしてのbefore-afterの意識の違いを聞けたのも面白かったです。どのような組織を相手取るにせよ、結局は「人といかに向き合うか」が重要だということが見えてきたのは、収穫だったと思います。

互いに興味のある対象は違うかもしれませんが、それぞれのアプローチでも、日本という国を少しずつより良いものへと変えていける、そんな確信が得られた対談でした。天野さんはいかがでしたか?

From: 天野

森さん、素晴らしい対話をありがとうございました。

今回の往復書簡は、普段の講演や執筆ではなかなか語ることのない「泥臭い話」を真正面から扱えて、本当に新鮮で楽しい経験でした。こういう話題って、どちらかというとカンファレンス後の飲み会で盛り上がるような内容ですよね(笑)。でも、だからこそ価値があるのだと思います。今回の往復書簡で、なかなか表舞台には出てこないリアルな組織変革の姿を少しでも共有できたのなら嬉しいです。

今回の対話を通じて見えてきた重要な洞察をいくつか整理させてください。

第一に、組織変革には「戦略的アプローチ」と「現場志向アプローチ」の両方が必要だということです。森さんのようにステークホルダーマップを作成し、意思決定者との関係を戦略的に構築していく方法と、私のように現場から積み上げていく方法——。どちらか一方では不十分で、状況に応じて使い分け、あるいは組み合わせることが重要なのでしょう。

第二に、「政治とカネ」の問題から逃げてはいけないということです。アジャイル実践者の多くは(かつての私も含めて)、理想的なチーム作りに集中するあまり、組織の意思決定プロセスや評価制度といった「泥臭い部分」を避けがちです。しかし、森さんが実践されているように、相手の評価基準や成果指標まで理解し、その文脈で価値を示していくことこそが、持続的な変革の鍵となります。

第三に、そして最も重要なのは、全ての変革は「人と人との関係性」に帰着するということです。どんなに素晴らしい方法論やフレームワークがあっても、結局は目の前の人と誠実に向き合い、その人の痛みに共感し、一緒に解決策を模索していく。この基本的な姿勢なくして、組織は変わりません。

個人的には、いつか森さんと現場で一緒に仕事をしてみたいと強く感じました。きっと、お互いの得意分野を生かしながら、素晴らしい変革を起こせるのではないかと想像しています(その時はぜひ、ふりかえりもたっぷりやりましょう!)。

明日からまた、それぞれの現場で、人と誠実に向き合いながら、小さな一歩を積み重ねていきましょう。この往復書簡が、組織変革に挑む皆さんの実践のヒントになれば幸いです。

森さん、本当にありがとうございました。

*1:SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意――メタスキル、学習、心理、リーダーシップ、Zuzana Sochova著、大友 聡之 翻訳ほか、翔泳社、2022年

*2:https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0149206304271386?fbclid=IwY2xjawMctNFleHRuA2FlbQIxMABicmlkETF1cjJMallySWY2RjdHaDVvAR5uDSWyKl6767BhtlRBjME00udMHCWOwvpe8TrIDHmwF9q7rE9-11yYV3DIYQ_aem_wYphefsKon84r77JwWhAjQ