PHPカンファレンスは、PHPを中心としたWeb開発やプログラミング技術に関する日本最大級のコミュニティ主導イベントです。今年は12月22日に、東京都大田区にある大田区産業プラザPiOで開催されます。参加費は無料で、PHP初心者から上級者まで幅広い層を対象としたコンテンツが提供されます。
このカンファレンスは2000年に初回が開催され、今年で25回目の開催です。長い歴史を持つイベントであり、歴代の実行委員たちによってその伝統が受け継がれてきました。今回は、2024年実行委員長(以下、委員長)の02さんと2018年委員長の原田裕介さん、2003年・2020年委員長の柏岡秀男さんに、これまでの運営の歩みやPHPカンファレンス2024に向けての意気込みなどを聞きました。
PHPのユーザーを増やしたい思いから、カンファレンスを開始
――PHPカンファレンス2024の開催が、いよいよ数日後に迫りました。今回のインタビューでは、まずPHPカンファレンスが2000年に発足した経緯について聞かせていただけますか?
柏岡:当時、PHPが日本でも徐々に普及し始めていたんですよ。マンモス本(『PHP4徹底攻略―Webとデータベースの連携プログラミング』の通称)が出版されるなどPHPがとても盛り上がり、日本PHPユーザ会が設立されました。その流れのなかで、有志が集まってPHPカンファレンス実行委員会を組成し、開催に向けて動きました。
初回から大田区産業プラザでの開催でしたが、どれくらいの方が参加してくれるか読めなかったので、いまのような全館貸し切りではなく小展示ホールのみでの開催からスタート。回を重ねるうちに「よりたくさんの人に来てほしい」との思いから、全館を借りるようになりました。
――とすると、参加者の集客は初期の頃から比較的うまくいっていたのですね。
原田:PHPは当時から幅広い層の方々が使っていたので、ユーザーの数が多かったんだと思います。レンタルサーバーを借りるとPHPはだいたい動く状態でしたし、HTMLのなかにPHPを埋め込むことも簡単にできます。だからこそ、エンジニアだけではなくデザイナーや趣味でWebサイト運営をしている人にとっても使いやすかったんでしょうね。
02:いまでも、PHPカンファレンスにはいろいろな人が来ます。PHPエンジニアはもちろん、自分自身はメインでPHPを使っていないけれど会社の特定サービスがPHPでできているから、勉強のために来たという人も多いです。
柏岡:カンファレンスの初期の頃から、他の言語のカンファレンスと比べて、年齢・性別を問わず幅広い層の参加が見られました。また、WordPressなどのPHP製アプリケーションが普及したことも、参加者の増加に大きく貢献したと思います。
かつて、カンファレンスの資金面は火の車だった
柏岡:原田さんと02さんはもともとPHPカンファレンスの参加者で、そこから運営に加わって委員長を務めたんですよ。ぜひ二人には、その経緯を話してほしいです。
原田:私はPHPを長らく使っていたので、何かこの言語に貢献したいという思いを持っていました。同人即売会のイベントスタッフなどを趣味でやっていたので、イベント運営のノウハウを活かそうと思い、PHPカンファレンスの運営に加わりました。
まずはカンファレンスのレポート記事のライターをして、それからスポンサー担当になって会計周りを担当しましたが、実はその頃はカンファレンスの資金面が火の車でした。全館開催になり始めた頃でしたが、会場利用料がそれなりにかかり、お金が全く足りていなかったんです。
02:いまはありがたいことに、スポンサー募集の告知を出すとスムーズに枠が埋まるくらい協力してくださる企業が増えたんですけれど、当時はまだそういう状況ではありませんでした。
原田:資金面を改善するために、複数の企業に営業メールを送ったり、スポンサー料について交渉したりと、苦労の多いところからのスタートでした。その後、多くの企業がPHPカンファレンスに賛同してくださり、たくさんのスポンサー料が集まるようになりました。感謝してもしきれないです。
――カンファレンス来場者から、入場料をもらうことは考えなかったのですか?
原田:PHPカンファレンスの実行委員たちは、参加費を無料にすることへの強い思いがあるんです。来場者からお金を取れば資金繰りは改善しますが、それだと初心者が来づらくなってしまうと思うんです。私たちは、PHPカンファレンスを通してPHPのコミュニティを広げていきたいので、その入口を狭めたくないという気持ちがあります。
柏岡:すごく大事ですね。それに通じる話として、私は毎年のPHPカンファレンスで初心者向けのセッションを発表しています。今年は「『PHP初心者セッション2024』 〜ChatGPTでゼロから動くプログラムを生み出そう!〜」というセッションを実施予定です。PHPに詳しくない人でも気軽に参加できる、実行委員たちが作ってきた伝統を無くしたくないですね。
――委員長を経験してから、原田さんのPHPカンファレンスとの向き合い方に変化はありましたか?
原田:委員長になる前は、自分の担当領域を一生懸命がんばることが活動の主軸でした。けれど、委員長になるとカンファレンス全体のことを考えなければなりませんし、さらに言えばPHPコミュニティへの影響も考えるようになりました。たとえば、カンファレンスが盛り上がったとしても、コミュニティにマイナスな影響を与えることがないように、いろいろな施策を行うようになりました。
運営が続くのは、決して当たり前のことじゃない
――では次に、02さんが実行委員長になった経緯について教えてください。
02:カンファレンスに最初に参加したのは、まだ大学生だった2016年の頃ですね。当時アルバイトをしていた会社の先輩から「PHPカンファレンスに参加しないか」と言ってもらったことがきっかけです。その後も、PHPについて勉強したり、コミュニティの方々と会ったりするにつれて、言語に対する思い入れも深くなっていきました。
そして、「次回のカンファレンスでは、難しいセッションの内容も理解できるようになろう」とか「1〜2年後には登壇できるようになろう」といったように、目標を持って毎年参加していました。カンファレンスをきっかけに自分自身が成長したのもあって、PHPコミュニティに恩返しをしたいという思いが年を重ねるごとに強くなりました。それで実行委員に加わるようになり、今年は委員長を務めるという流れです。
委員長を担うのには理由があって、カンファレンスというのは当たり前に続くもの“ではない”と私は思っているんですよ。PHPカンファレンスは25年も続いてきましたが、これは奇跡だと考えていて、もし実行委員たちが活動をやめれば、カンファレンスはすぐに途絶えてしまいます。そんなふうになくなったカンファレンスも、世の中にはたくさんあります。私はPHPのコミュニティが好きですし、カンファレンスも好きです。だからこそ、次の世代にそのバトンをつなぎたい気持ちもあって、「委員長をやりたいです」と立候補しました。
柏岡:なんか泣きそうになってきました。立ち上げた頃の思いが、ここまでつながっていますね。私もPHPカンファレンスを続ける理由は、コミュニティへの恩返しなんですよ。だからこそ、後の世代の委員長が同じ思いを持ってくれるとうれしいです。
余談ですが、私は趣味でバスケットをやっています。バスケットでは、強豪校は時代が変わってもずっと強いんですよ。それはいろいろな要素が関係しているんですけれど、やはり熱い気持ちを持った先輩たちが、背中を見せてくれるのが大きいんじゃないかと思います。
カンファレンスの委員長も同じですよね。「前任の委員長を見習ってがんばろう」とか、その逆に「運営をこう変えたほうがいいな」と、先輩たちの背中を見て何かしらの思いを持った実行委員が出てくる。そういう人が登場すると「この人は次の委員長候補だな」と感じています。
PHPカンファレンス2024の見どころ
――PHPカンファレンス2024における新たなチャレンジや推したい点はありますか?
02:いままでにない取り組みとしては、今年はytakeさんによる「PHPエンジニアのためのアクターモデル完全ガイド」やきんじょうひできさんによる「作って理解するComposer <クイックコース>」などの、ワークショップのセッションを設けています。ワークショップのセッションを公募したのは、今年が初めてです。
柏岡:確かに、企業に依頼してワークショップを実施してもらったことはあるんですが、公募の形式では初ですね。
02:私は他のカンファレンスなどにも積極的に参加しているんですが、そのなかでもワークショップ系のセッションは好きなので、ぜひやりたいと思っていました。
それから、PHPカンファレンスは今年で25回目の開催という節目の年なので、世界中で開催されてきたPHP関連のカンファレンスの年表を展示しようと構想しています。いま、実行委員のメンバーたちがWeb上のアーカイブなどを漁って情報を集めているんですが、めちゃめちゃ量が多くて何百行ものボリュームになっています。
他には、基調講演やセッションはどれも面白いですが、あえて1つおすすめするとしたら高町咲衣さんの「PHP RMは何をする?コア開発者と兼任するメリット/裏話」です。高町さんはPHP Foundationのコア開発者かつ2024年11月に出たPHP 8.4のリリースマネージャーです。PHPの歴史で初めて、日本人がリリースマネージャーを務めました。その役割や裏話が聞ける貴重な機会なので、ぜひ多くの方々に視聴してほしいです。
カンファレンス運営はエンジニアの人生を豊かにする
――エンジニアがカンファレンスの運営に携わると、その人のキャリアにはどのような点がプラスになると思われますか?
02:プライベートで何かの催しがあるとか、会社で何かイベントがある場合にも「こういう内容にしたらどうだろう」と積極的にアイデアを出せるようになりました。それから、実行委員の仕事はトラブル対応がつきものなので、何かが起こっても動じない心が身に付きます。トラブルがあっても「まあ、大抵のことはなんとかなるだろう」と穏やかな心でいられます。
柏岡:こういったプログラミング言語のカンファレンスに携わっていると、界隈のすごい人たちと関わる機会が多いんですよね。PHPのコミッターやリリースマネージャーのような人たちをカンファレンスに呼んだり、会場で話したりといったことができるわけですよ。もちろん、ユーザーの方々とも仲良くなれます。そうした経験を積むうちに、多くの人たちとのつながりができて、仲間が増えました。
原田:セッションや基調講演そのものが勉強になるのはもちろんですが、カンファレンスでのつながりをきっかけに何かのチャンスに結びついたことが数多くありました。カンファレンスを機に仕事をもらうとか、登壇や寄稿のお声がけをいただいたこともあります。
それに、私は株式会社ベター・プレイスという会社でCTOをしていますが、このキャリアにもPHPカンファレンスが大きく影響しているんですよ。スカウトメッセージを受け取ってこの会社に入りましたが、PHPカンファレンスの実行委員長を経験していたことから、技術力だけではなく組織運営力やコミュニティへの影響力なども評価してもらいました。
――カンファレンス運営を通じて、みなさんの人生がとても豊かになったのですね。それでは最後に、PHPカンファレンス2024に向けての意気込みをお願いします。
02:PHPカンファレンスは、初心者の人から上級者の人まで楽しめるようなコンテンツを用意しております。無料で参加できますから、ぜひ会場に足を運んでください。
原田:PHPカンファレンスは日本国内でも有数の規模の催しなんですが、規模が大きいということはいろんな人が参加しやすいということでもあります。ぜひ、初めてカンファレンスに参加する方にも、コミュニティへの入口として足を踏み入れてほしいです。
柏岡:私は今年も初心者向けのセッションを担当します。よかったらこのセッションに来てほしいですし、これ以外にもきっと何かしら興味が湧くようなセッションがあるはずです。PHPを普段使っている方にとっても、そうでない方にとっても参考になることがたくさんあるので、来場をお待ちしています。
取材・執筆:中薗昴
撮影:山辺恵美子