なぜキャディはCTO経験者を1年間で3名も採用できたのか?優秀なエンジニアを惹きつける企業の条件

優秀なエンジニアが集まる環境を整えることは、IT企業にとって事業の成功を左右するほどに重要な要素であると言えます。経験豊富なエンジニアリングマネージャーが入社すれば、開発組織の拡大に寄与してくれます。スキルの高いテックリードが入社すれば、より良いアーキテクチャを実現でき、開発の生産性も向上するでしょう。

製造業向けのプラットフォームを提供するキャディ株式会社は、まさにこの“優秀なエンジニアが集まる環境”の構築に成功している企業です。2023年時点でCTO経験者が2名いたのに加えて、2024年1月には元Sansan株式会社 CTOの藤倉成太さん、2024年9月にはTalknote株式会社や株式会社ニューズピックス、Uzabase USA, Inc.など複数企業のCTOを担った杉浦正明さん、2024年10月には元dely株式会社 CTOの井上崇嗣さんが参画しました。

エンジニア採用に苦戦する企業が多いなか、なぜキャディは直近で3名ものCTO経験者を採用できたのでしょうか。そして、エンジニアを惹きつける取り組みとは。今回はこのお三方に、優れたエンジニアを採用するために必要な要素を語っていただきました。

せっかくチャレンジをするのならば、前職で見たことのない景色を見たい

――Findy Engineer Labではこれまで、藤倉さんの転職経緯杉浦さんの転職経緯についてインタビューしてきました。井上さんへのインタビューはこのメディアで初めてですが、なぜ次なる挑戦の場としてキャディを選んだのでしょうか?

井上:転職を特に意識していたわけではありませんが、delyで培った経験をより広い視点で役立てられる場があるのではと考えるようになりました。そして、せっかく働くならば、自分の力を活かして日本を良くするために貢献したいと思うようになったんです。

日本は人口が減少しており、それに伴い国内の生産量や消費量も減っているという課題があります。日本のマーケットだけで勝負してもダメなので、日本で作ったものをグローバルに展開することで、国を豊かにしたいという気持ちがありました。日本が強みを持っていて、かつグローバルで戦える有力な業界として、製造業が挙げられます。そこで、キャディで働くことを考えました。

井上崇嗣さん

杉浦:複数の会社でさまざまな経験を積むと、キャリアにおける目標が徐々に広く遠くなってきますよね。若い頃はとにかく自己研鑽やキャリアプランが大事でしたが、だんだんとチームで何かを成し遂げたいと思うようになりました。

そして、前職で上場やイグジット、非上場化といった一連の流れを経験したことで、せっかく今後も働くならば、自分が過ごした日本のIT業界のために恩返しをしたいと思うようになりました。井上さんが言ったように日本の市場自体がシュリンクしていくなか、グローバルに展開するような、インパクトの大きい仕事をするほうが楽しそうだなと。

藤倉:世の中にはいろいろなタイプの人がいて、なかには転職後も前職と同じような環境で、同じような仕事をもう一度したいと考える方もいます。一方、私は転職後のキャリアにおいて、やったことがないことに挑戦したい気持ちが強いんですよ。

前職ではCTOという責任のある立場を任せていただいて、ある程度の手応えや達成感がありました。ですが、グローバルでの事業に関しては真剣に取り組んだものの、完璧な成果が出ているとは言い難く、前職でやり残したことのひとつでした。だからこそ、キャディでその目標をかなえたいと思っています。

この10年で、エンジニア採用市場にはどのような変化が起きた?

――今回のインタビューでは「優れたエンジニアが集まる環境づくりのために、何が必要なのか」にフォーカスしてお話を聞きたいです。前提として、5年前とか10年前と比べて、優秀な方を採用するための方法論や難易度に変化はあったでしょうか?

藤倉:レベルの高いエンジニアの定義が、以前とは変わってきていると思います。技術的にも優秀でありビジネスや経営の知識も持っているような人材は、10年くらい前にはそれほど多くなかったはずなんですね。

しかし、ハイスキルなエンジニアがCTOやVPoEといった責任のある立場を経験したことにより、もともと優秀だった人のレベルがさらに高くなるという現象が起きました。10年前と現在とでは、“優れたエンジニア”の定義そのものがかなり変わっているのではないかと思います。

杉浦:確かに、10年前はCTOというポジションに就くハードルはもっと低かったですよね。CTOになるうえで最大のハードルはスキルうんぬんというよりも、小さなスタートアップで働くことによる給料減が許容できるかどうか。給料が安くてもやってやるという、気概のある人を探すのが大変でした。

いまは全く違っていて、かなり優秀でなければスタートアップのCTOになることは難しいですし、金銭面の条件もだいぶ良くなっています。そのため、優秀な方に来てもらえるような企業づくりの難易度は、昔よりも高くなっていますね。

杉浦正明さん

井上:私はもともとSIer出身で、スタートアップに携わるようになってからちょうど10年くらいなんですね。体感としてあるのは、技術的なコモディティ化が進んだことです。技術面だけを見れば、どの企業でも似たようなものを扱えるので、「こういった技術に挑戦したければ、この会社でなければならない」といったことがほとんどなくなりました。だからこそ、技術以外での差別化をしなければ、良い人がなかなか来てくれない状況にあるのだと思います。

――そうした採用市場の変化から、現代においてはどのようなアトラクトの手段が必要になっていると思われますか?

藤倉:杉浦さんや井上さんもそうですが、CTO経験者というのは前職で一定の成果を出しており、同じような仕事の焼き直しにはあまり興味がないわけですよね。私が採用面接などでいつも心掛けているのは、もっと難しい課題、もっと面白いこと、もっと先の未来にこの会社で出会えるということを、応募者にどれだけ明確に伝えられるかなんですよ。

井上:確かにその要素は重要で、ただ夢物語を語るだけではダメなんですよね。現実離れした計画や目標には魅力を感じてもらえないので、大きなことを語りつつも、その未来に至るまでの道のりをデータや実績に基づいてどれだけ解像度高く説明できるかなんです。

私はキャディ入社前に代表取締役の加藤と話したんですが、まさにこの要素をすごく感じましたね。壮大なビジョンを持っており、かつ「この人なら実現できるかもな」という説得力があるという。

杉浦:違った切り口で話すと、自社に来てほしいと思う優秀な人がいるならば、ベタなやり方ですが一緒に飲みに行くのはすごく効果がありますよね。お酒を飲んで仲良くなって「いまの職場どうですか?」とか「今後、仕事で何を実現したいですか?」と聞いてみる。そして、「私たちはこういう未来を実現したいけれど、今これができていない」「でもあなたならできるかもしれない」と腹を割って話す。とにかく最初から素の状態で会って、相手と本心で話したほうがいいです。もしかしたら、お互いの求めるものが合わないかもしれないけれど、それがわかったことは成果だと思います。

企業のブランドだけではなく、開発組織のブランドを高めるために

――優れた人を惹きつけるためには技術ブランディングも重要ですが、これまでの活動実績を踏まえてのコメントはありますか?

井上:技術ブランディングにおいては反省点が多いですね。優秀な方に来てもらうにはまず人々の目に留まる必要がありますが、技術面だけをがんばって発信してもあまり効果的ではないんですよ。事業と技術の結び付けというか、高い技術力が事業に活用されているんだという見せ方が重要なんですが、前職ではそれをやりきれなかったという気持ちがあります。

杉浦:ニューズピックスも同じような課題はありましたね。コンテンツが強い会社なので、ブランディングにおいてどうしてもビジネスやテクノロジーの要素が埋没しがちなんですよ。

――企業の情報発信は、何かの要素が目立つと他の要素の印象が薄くなってしまいますよね。

杉浦:私がCTOだった時代はたくさん技術イベントを実施したり技術ブログを書いたりと、とにかく行動量を増やすことを大切にしました。

藤倉成太さん

藤倉:前職のSansanも似たようなところがあって、プロダクトを売るためのマーケティングとエンジニアのための採用ブランディングというのは、ある種コンフリクトする部分があるわけですよ。

たとえば、テレビCMなどで短時間のうちにプロダクトの情報を印象付けるには、キャッチーなタグラインを付与してわかりやすいメッセージを伝える必要があります。でも、そういった情報発信の方法というのは、エンジニアからすると「Sansanは有名な会社だけれど、発信されている情報を見てもプロダクト開発の面白さややりがいはわからない」といった具合に、ネガティブに働いてしまう可能性があるんですね。

そこで私は開発組織のイメージを、できるだけプロダクトのマーケティングイメージから遠ざけるようにしていました。SNSでも開発組織のアカウントは会社の公式アカウントとは全く別のアイコンにするなど、テイストを変えるような工夫をしていましたね。

そして、開発組織のみんながより積極的に情報発信できるような体制をつくっていました。私がCTOに就任してから技術ブログを開設して、さらに技術ブランディングを専門とするチームを立ち上げてエンジニアたちの発信力を支えられるような仕組みづくりをしました。

志を持った人々の、受け皿のような企業になりたい

――キャディの組織づくりやエンジニア採用における目標はありますか?

杉浦:エモい話を最初に言うと、高い志を持つ人を集めたいです。日本の未来を良くするために、グローバルで戦えるプロダクトを作りたいという人たちと一緒に働きたい。私たちキャディがそういった人々の唯一の受け皿になるくらいの気持ちでいます。そして、プロダクトをグローバルに展開するだけではなく、日本のエンジニアが海外で活躍できる足掛かりにしたいですね。

井上:私が働くうえで何よりも大切にしているのは、仲間たちと同じ方向を向いて一生懸命に仕事をするということなので、キャディでその目標を実現したいと思っています。あと、グローバル展開することで、技術的な学びもたくさんあるはずなんですよ。日本国内だけで使われるシステムと、グローバルに使われるシステムとでは、開発や運用の技術的な難易度そのものも違ってきますから。キャディを、そういった貴重な経験ができる会社にしていきたいですね。

藤倉:日本のソフトウェアビジネスは、海外のいずれかのマーケットでいくばくかの結果を出すところまでは到達できていると思うんですよね。ただ、本当に世界中で勝ち切っている会社というのは、まだ存在していません。日本のエンジニアは世界的に見ても相当に優秀なはずなのに、結果を出せていないのはおかしいと思う。だからこそ、今後のキャリアにおいてグローバルで成功するという目標を、何としても実現したいわけですよ。

とはいえ、世界で使われるようなプロダクトを、日本人の力だけで作り切れるわけがないと思うんですね。矛盾するようですが、日本の力を示していくには、海外の人たちとのコラボレーションが絶対に必要になります。世界中のエンジニア集団が有機的につながって、プロダクトをみんなで作り上げる。そのプロダクトが、世界中で使われている。そんな未来が実現できたら、きっとすごくワクワクするだろうなと思います。

――まさに、キャディのようにグローバル展開する企業だからこそのやりがいですね。最後に今回の記事のテーマを踏まえて「優秀なエンジニアが集まるような会社づくり」について、みなさんからのコメントをお願いします。

井上:話した内容と重複する部分もありますが、どの会社も技術的にはコモディティ化が進んでいるからこそ、「技術を用いて世の中のために何をするか」に目線を向ける人が多くなっています。

私は製造業という領域に魅力を感じましたが、「キャディが製造業の未来のために何をしているか」「その活動によって何が変わるのか」が世の中に伝わっていない部分もたくさんあると思います。今後はそういった情報をうまく伝えて、仲間を集めていきたいです。

杉浦:大きなミッションを掲げ、そこに向けて着実に実績を積み重ねることが人を惹きつけるポイントなので、それをやっていこうと思います。毎月、毎年、着実にゴールに向かっている姿を見せることで、共感してくれる人が現れると信じています。

藤倉:優秀な人に来てもらうには、変化のスピード感がとても重要だと考えています。大きな挑戦をして、それに伴って組織やシステムがどんどん拡大すると、優秀な人が活躍できる場というのも増えていくんですよ。だからこそ、キャディ社内にはすでに優秀なメンバーたちがたくさんいるにも関わらず、そこに杉浦さんや井上さんが加わっても、決してtoo muchになりません。

ただ、チャレンジングな場とカオスな場というのは紙一重なので、企業や組織の状況が大きく変わるなかでも、働きやすい環境を整えていきます。アグレッシブに挑戦ができるけれど適度な秩序のある、いろいろな人たちが力を発揮しやすい会社にしていきたいです。

取材・執筆:中薗昴
撮影:山辺恵美子